コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 子羊さんとシェアハウス〜獣君の甘いこと〜【8/18更新】 ( No.95 )
- 日時: 2013/08/24 15:30
- 名前: 朔良 ◆oqxZavNTdI (ID: 2IhC5/Vi)
企画番外編【バレンタインデー】
真夏のバレンタインデーの放課後、向かいの男子校にはすでに女の子たちが大勢いた。
黄色い声がこちらにまで聞こえてくる。
「すごいね……あの女子の数」
弓禾も苦笑いでいる。
「だね……あ、じゃあまた明日ね」
今日は食料を買いに行ってから帰るから、早く行かないといけない。
弓禾と別れ、校門を出る。
その途端、女子たちの叫びが聞こえた。
「ちょっと! そこ邪魔なんだけど!」
「ねえねえ、祐夜君! これ受け取ってー!」
「蛍君! 作ったので……食べて下さい!」
見ると、私の高校の生徒もいたので複雑な思いになる。
あの女子軍団の中に蛍さんと祐夜さんはいるのか……。学校にそんな人気者がいるなんて、他の男子はどういう気分なのだろう、と考えて可哀想になってくる。
ちらりと、蛍さんの顔が見え、目が合った。苦笑いでその場を去ろうとすると、いきなり名前を呼ばれた。
「麻耶!」
「——え?」
蛍さんが女の子を掻き分けてこちらへと向かってくる。
私の腕を取ると、高く持ち上げて、
「俺さ……この子のチョコじゃないと食べられないみたい」
きゃあああという女子の叫びが響く。
「ちょ……何してんですか、蛍さん!」
小声で蛍さんに問う。
「今だけ協力しろ」
かなり真剣な目で見てこられ、何も言えなくなってしまう。
「か、会長!?」
「藤咲会長! 何で……!」
どうしようかと言い訳を考えるが、咄嗟には思いつかない。そうしている時に、祐夜さんもいつの間にか隣に立っていた。
「あ、あの……?」
「俺、人から貰ったのを食べられないんだ」
そう言ってから、私の頭に触れる。
「こういうのを自分好みの味にしたいんだよね」
またもや女の子たちの叫びが響いた。
「会長とどういう関係なんですか!?」
……どうしよう。管理人と住人の関係、なんて言えないし……。
そして、思いついたものは、
「……お、幼馴染、です!」
そう言って、二人の手を取り、走り出す。
即座にスーパーに入り、隠れた。
「はあ……き、急すぎるんですよ! やることが!」
「だって咄嗟に思いついたやつだし」
蛍さんが息切れもせずにさらりと言う。
「まあ、助かった、ありがと」
祐夜さんが買い物カゴを手に取りながら言った。
「買い物、するんでしょ?」
「——はい」
しょうがない、と思いながら返事をする。
「……そういえば、二人とも一つもチョコ貰ってないんですか?」
「え、ああ、うん」
「なら……」
バッグの中を探り、二つの箱を取り出す。赤と青の箱。
「蛍さんにはナッツチョコ」
そう言いながら、赤い箱を渡す。
「祐夜さんにはビターチョコです」
青の箱を渡す。
「一応、用意してたので」
少し、気恥ずかしいので俯いてしまう。
「……どうも……」
蛍さんが小さい声で呟く。恥ずかしさからなのだろうか。笑ってしまいそうになるのを堪えた。
「——ありがとう」
祐夜さんも軽く微笑みながら礼を言ってくれた。
私も二人を見て嬉しくなる。
そのまま買い物をし、私達の家へと戻った。
完