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- Re: LOVE・CRAZY【短編…?】『ワンコな彼』更新 ( No.18 )
- 日時: 2013/07/20 15:31
- 名前: 冬の雫 (ID: JxRurJ5z)
『サイカイノアト クール×余命宣告』
プロローグ>>0
「……ぇ、半年…?」
驚いたと同時に、ギ、と鈍い音をたててわたしの座っている椅子が動いた。
でもわたしはそんなことなど気にせず、「何が…、ですか?」と半ば信じられないように医師の言葉をリピートする。
「……あなたの、命です」
「………!」
「もう長くはもたない…。まだ大学生だというのに、辛いだろう」
……違う。
そんな言葉を聞きたい訳じゃない。
なんで?
なんでこんなことになったの?
本当にそれは真実なの?
聞きたいことが山ほどあり過ぎて、頭がパンクしそうだ。
……でも。
こんな考えも、半年後には跡形もなく無くなる……───
「……ぃ、いやだ……、」
「でも…」
「いやですっ!どうにかしてください、先生っ!!」
「……、……」
医師に言ったとしても、どうにもできないことは分かってる。
大学生ナメんな。
……でも、さ。
わたしはどうしても生きたいんだ。
なんでかって?
───……わたしは愛しい人と、再開することが出来たんだ。
***
ー余命宣告から、一週間前ー
「あいつ彼氏出来たんだってさ」
「マジかー」
ガヤガヤと賑わう食堂。
お金に飢えている学生たちにとっては、この 安さの宝庫ともいえる食堂はいわば神様のような存在だろう。
わたしはいつもの定食を前に、ある人と話していた。
「大丈夫?急に気分が悪くなったって……」
「……ん」
その人は、つい先日この大学にやって来た人。
……わたしの、愛しい人。
「というか、びっくりしたよー。何年も会ってなかったのに、急に会える日が来るなんて」
覚えてる?と昔のことを聞くと、その人は「さぁな」とそっけなく食事を口に含んだ。
「さぁな、って…。本当変わってないね」
「お前こそ。俺につるむなんて相当変人だな」
「はぁ?」
なんであなたとつるんだら変人になるの?
わたしには理解しきれないんだけど。
「なんで?」
「……俺は無視するのが得意だ」
「…っふは!何ソレ!」
わたしは不意を突かれた言葉に、つい笑ってしまった。
未だ賑わう食堂では、わたしたちの会話も消されていく。
「あなたがわたしを無視するとか?」
「それはないが…そういうこと」
「いやいや、ありえないでしょ」
うん、絶対にありえない。
そもそも、久しぶりに愛しい人と会えたんだよ?
それだけで、心が踊るくらい嬉しくなるじゃん。
「…今日バイト何時に終わる?」
「んー、10時くらいかな」
「分かった。待ってる」
彼はそう言って、食べ終わった物を運んで行った。
「……“待ってる”か…」
ああもう、かわいいな。
まるで主人の帰りを待つ猫みたい。
あのクールな顔に、猫耳なんて生えたら……
「……ははっ」
面白くて仕方ない。
***
「……どうにも出来ないことは、仕方ないんだ。諦めなさい」
「でも先生……っ」
「……半年間、やりたいことをたくさんやって、ああもう悔いはない、と思える人生にしなさい。私から言えるのは、それだけだ」
「………そんな……」
ウソでしょ?
ウソだと言って。
今日も家で愛しい彼が待ってるの。
「……っう、ううっ…っ…」
その日、わたしは泣いた、泣いた。
でも彼にはこんなの見せられないから、近くの公園に駆け寄って。
泣いてスッキリしても、心は晴れない。
……これから、どうしようか。
「…やりたいこと、か……」
そんなのたくさんある。
彼とたくさん話したい。
たくさんの時間を共有したい。
彼をたくさん抱きしめて、抱きしめられたい。
一緒に眠りたい。
これからも、これからもずっと……───
そう思うと、足は自然に動いていた。
***
「ただいま!」
明るく振舞わなくては。
彼を心配させないようにしなければ。
「……あれ、いないの?」
……でも、思っていた彼のおかえりの声はなくて、優しい言葉もなくて。
………ただ、部屋が暗いだけだった。
「…出掛けてるのかな…」
少し残念な気持ちと、ほっとする気持ち。
彼に知られたくないんだ、あのコトは。
隠し通すのはムリだって分かってるけど、やっぱり、なるべく隠したい。
そして、いつか打ち明けよう。
「……おーい」
呼んでみる。
返事はない。
「やっぱ帰って…、」
そう言った瞬間、掠れた呻き声が聞こえた。
小さく悲鳴を上げて、でも次には急いで電気を点ける。
───そこには、ソファーで眠る愛しい彼がいた。
「…なぁんだ、寝てたのか……」
どうりで暗い訳だ。
寝てるということに、少しホッとした。
「…こんなとこで寝てると風邪ひくぞー」
しゃがんで、彼の頬に触れる。
冷たいけれど温かくて、何年かぶりに彼に触れたってことに気付いた。
「ああもう……」
愛しい。
本当に愛しい。
「……風邪ひいても知らないからね」
そう言って立ち上がろうとすると。
「どこ行くの」
彼が、がっちりとわたしの腕を掴んでいた。
「え、な、なに……」
「無断で触ったお返しだ」
「…! …きゃっ」
ぐい、と引っ張られる。
反応するよりも先に、ソファーに倒れていた。
「…いったぁ〜、何すんのよ…」
すぐ目の前にある彼の整った顔を睨む。
彼は少しだけくすぐったく笑って、唇を動かした。
「…好きだ。大好き」
ああ、神様。
願いが叶うなら───まだ何も知らない彼を、幸せにしてあげてください。
わたしなんかいいから……彼の願いを叶えて。
わたしを───生かしてよ、神様。
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