コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 真実の妖精王国【11/25〆名推理募集中】 ( No.185 )
- 日時: 2014/04/03 13:31
- 名前: 夕衣 (ID: VI3Pf7.x)
08 隠されたメッセージ
[フェルside]
僕の推理が正しければ、あの人はまだ証拠を隠し持っているはずだ──
ルルとリレークを呼んだあと、僕は遺体が発見された部屋へと走った。容疑者たちには、すでに集まってもらっている。無論、エリオスさんにも。
ガチャ。
「あら、さっきの…フェル君だったかしら」
「いい加減帰してくれない?まだ仕事が残ってるのよ!」
「んで?犯人は誰なのかわかったのか!?」
3人が僕を見るなり突っかかってきた。僕は、ひと呼吸おいて口を開いた。
「もちろんです。犯人は───」
みんなの顔が、強張る。あのエリオスさんもだ。
「────ブーケさんです」
途端に視線が、彼女に集まった。当の本人は、怒りを隠しきれていないようだ。
「な、なんで私なのよ?」
「あなたの証言に、矛盾があるからです」
「む、矛盾…?」
彼女はとぼけている……つもりなのだろう。
「はい。ブーケさん、あなた、確か第1発見者でしたよね?しかし、僕があなたになぜ服を着替えなかったか問うと、こう答えました。『レン君が殺されたって聞いたら、飛び出さずにはいられないじゃない』とね」
僕が犯人を確信できたのも、実はこの言葉のおかげだったのだ。
彼女は何も言わない。
「第1発見者のあなたが他人から事件のことを聞く。そんなことは、可能でしょうか?」
ミリアさんもビリーさんもハッとした表情になった。
「……凶器は?証拠はあるの!?」
「あるに決まってるじゃないですか。まず凶器についてですが、それはブーケさん、あなたと同じ仕事をしているひとなら、誰もが持っている道具ですよ」
僕は荷物検査の時を思い出す。
「そして、あなたの画材セットの中になかったもの。……すなわち、木炭です。見事に1本も残っていませんでした」
「ふざけないで。あんなもので、どうやって人を刺すわけ?」
「それは分かりませんが…あなたが、木炭をここに持ち込んだ形跡はあります」
視線を床に落とすと、そこにはあの黒い粉末が落ちていた。
僕はそれをそっとなぞり、彼女に見せた。
「これ…被害者の傷口にもついています」
この粉末の成分が炭だということは、すでにエリオスさんから聞いている。
「そっ、それは…!」
「まだありますよ」
僕はエリオスさんの方を向いた。
「いらないタオルと、あの霧吹きをもう一度貸してください」
それを受け取り、蛇口でタオルを濡らした。そして、ダイイング・メッセージをきれいに拭き取った。
その瞬間、みんなから驚きの声が上がる。
「お、おいフェル…」
「いいんです。見ていて下さい」
シュ…
僕は、静かにレバーを押す。
周囲の視線は、そこに釘付けになった。
そして、そこに書かれていたのは……“ブーケ”。彼女の名前だ。
「なに、これ…この液体は?」
「血液に反応して黄色くなる液体です。見えにくいので一旦拭き取りました。ご覧の通り、ここには彼女の名前が書かれていますね」
「フェ、フェル君……」
それまでずっと言葉のなかったマータがおずおずと口を開いた。
「あの…わたしの名前が書かれてたのは、どういうことなの?」
小さく首を傾げるマータ。相変わらず可愛い。……って、今はそれどころじゃない。
「それは、上から赤い絵の具で塗られてたからだよ。ほら、ブーケさん、赤い絵の具がたくさん残ってたじゃないか。あれは、使い切ってしまって、新しいものを補充したから……ですよね、ブーケさん」
「ええ…」
「その絵の具のチューブがこの部屋の中から見つかれば、それが証拠となります。ちょっとブーケさん、上着を失礼しますね」
案の上、その部屋のゴミ箱からはチューブが見つかった。そこから、彼女の指紋も検出された。
その後、僕はブーケさんの上着の赤い染みを拭き取り、霧吹きをかけた。何も起こらない。そして僕は上着を彼女に返した。
彼女の顔からは怒りが消え、代わりに困ったような柔らかい笑顔が映っている。諦めたように。
「わかった。全てを、話すわ……」
彼女は大きく深呼吸をして、語り始めた。
「最初はね、別に殺そうとなんて思ってなかったの。ほんとに普通のデートのつもり。でも、彼とここに来て……」
『やっぱ、違うな。有名画家っていうのは。絵と音の血を継ぐお前でも、この絵と比べりゃ無能に等しいな……』
「彼が、そう言ったの。私は、それを聞いて、思わず…」
刺してしまった。当然木炭だから、すぐに折れてしまう。画材セットの中の木炭が1本も残ってなかったのは、そのせいか……
「最後にひとつ、お聞きしていいですか?」
「え、ええ…何?」
「あなたはなぜ、マータの名前を知っていたんですか?」
ああ、とブーケさんは言った。
「彼の、元カノの名前。最低な女だったから。それに、あの子が来たときなんか私気が動転してたみたいで…ごめんね」
「あ、や……」
マータは誤解が解けて良かった、とホッとしていた。
「それにしても、残念ね。こーんなすぐにバレちゃうなんて」
彼女の瞳には、少しばかりか涙が浮かんでいた。
「それは違うんじゃないですか、ブーケさん」
え、と驚いて僕の方を見る。
「本当は…誰かに気づいて欲しかったんじゃないですか?」
「…どうして?」
「あなたの上着に付いていた、あの赤い染みは、返り血なんかじゃありません。かと言って普通に絵を描いていてそんなにべっとりとつくはずもないです」
彼女は目をパチクリさせ、ふっと笑みをこぼした。
「実際、木炭程度ではあんなに返り血も飛びませんしね。つまり、あれは必要のなかった細工です。そんなことをする理由はただひとつ…誰かに、気づいてもらうためですよ」
彼女の頬を、きらきら光る液体が流れていった。
「ええ。その通りよ。こんな私でも、みんなに理解して欲しかったの───」