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Re: 真実の妖精王国【mystery in the forest】 ( No.234 )
日時: 2014/03/25 14:52
名前: 夕衣 (ID: VI3Pf7.x)

09 事件に恋はつきもの?

「優斗くーん!」

遠くから未陽の声がする。それを横目で確認した優斗はあたしのそばから離れていった。

……やっぱり、何か隠してる。

そう感じたあたしは敢えて追いかけず、その場に立っていた。言わないのには何か理由があるはずだからだ。直接本人から聞きたい。

……と、その時。

つんつんっ。

誰かに背中をつつかれた。優斗はあちらにいるので彼ではない。アリアちゃんたちなわけもない。

=変質者

だと推測したあたしは恐る恐る振り返る。するとそこには、予想に反してあの大きな瞳のあの子が居た。

「絵梨ちゃん……怖いよ?」
「……ごめん」

あまりにも驚き過ぎてそっけない反応しかできなかった。

「琴ちゃん、ひとり?」
「ううん、健吾君と一緒」

そう言った彼女の頬は、ほんのりと紅く染まっていた。
ひとの気持ちに我ながらけっこー敏感だと思うあたしにはすぐにピンと来た。

「琴ちゃん、恋してるでしょ」
「ふぇっ!?」

そう茶化すとますます真っ赤になっていく。わかりやすいなぁ……

「それも、健吾君に」
「………ななっ、なんでわかるの!?」

どうやら図星のご様子。琴ちゃんの瞳はさらにさらにと大きくなってゆく。だけど、事態を理解したあたしもあることに気づいてしまった。
危うく大声を出しそうになる。
とりあえず、今は言わないでおこう。事件とは全く関係ないもの。

「おーい、琴ー?」

噂をすれば健吾君だ。ちゃっかりニックネームで呼んでもらっている。あたしはモジモジしている琴ちゃんの背中を思いっきり押した。

「も、もうどこいたの?心配しちゃったよ」

この一言を聞いて健吾君がどうなったかなんて言うまでもない。

「……あいつらと、話してた」

健吾君の指差す先には、早雪と大智君の姿があった………って!
琴ちゃんもそうだが、なんでクラスのみんながここにいるのだろうか。
視線を泳がせば、渉君になっちゃん、桃に洋一君が視界に入る。
もっとも、向こうはあたしに気づいていないみたいだけど。

「みんな、集合しろ!」

その時優斗の声が響き渡る。クラスのみんなは、あらかじめそれを知っていたかのように彼のほうへと駆けて行った。







「……どうしたの?いきなり呼び出して」

琴葉が話を切り出す。その表情には、絵梨と話していたときの明るさはない。ただ怯えの色が浮かんでいた。

「悪いんだけど、絵梨に聞かれると相当まずいことになるから声のボリューム落としてくれ」

優斗は答えにならない答えを返す。彼の視線はまっすぐと迷いなく絵梨へと向けられている。当たり前だが、彼女は寂しそうな顔をしていた。

「絵梨、なにかしたの?」
「ううん、別に絵梨はなんにもしてない。悪いのは……犯人よ」

未陽の言葉にその場にいた全員が驚愕する。そりゃそうである。クラスメイトが犯人と絡んでいるなんて知ったのだから。
未陽は、続ける。

「あたしたちの妖精の友達……アリアとアリサっていう姉妹なんだけど。そのふたりが誘拐されたの」
「ゆっ……誘拐!?」
「そう。それで、電話で“返して欲しかったら絵梨をわたせ”なんて言うのよ」

彼女は、言いながら一粒の涙をこぼしていた。

「その声に、覚えはないの?」

桃が未陽を慰めるようにして言う。普段の彼女とは違う同情のこもった声色だった。
しかし、未陽は力なく首を横に振った。

「全く。というより、機械を通したような声で性別ですら分からなかったの」
「でも、妖精なんだろ!魔法使えばそんなの朝飯前じゃないのか?」

大智がここぞとばかりに意見を元気良く言う。が、

「そんなのどっちだっていいじゃない。絵梨を守ることを考えなさい」

という早雪の冷たい一言を聞き、彼はがっくりと肩を落とした。
そんな空気を取り払ったのは瑠花だった。

「まあまあ……つまり、このことを絵梨に知られてはいけないし、対処法も考えないといけないってことね」
「そこでなんだけど、優斗君の話聞いてほしいの」

みんなの視線はその一言によって彼に集まる。当の優斗は「え?」と目をパチクリさせていたが、思い出したのか顔を上げた。

「少々危険だけど……」

彼の話をきいたみんなは、口々に歓声を上げた。しかし、琴葉はひとり心配顔だ。彼女の心配性がよく表れている。

「大丈夫よ。慎重にいけば、ね」

瑠花が後ろからそっと声をかけると、

「ふふっ。瑠花ちゃんの“慎重に”、久しぶりに聞いたかも。そうね、わたしもやってみる!」

ようやく琴葉も笑った。