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- Re: 神様による合縁奇縁な恋結び!?【4話更新】 ( No.35 )
- 日時: 2013/08/04 07:39
- 名前: 妖狐 (ID: idHahGWU)
「だから私は柴田君ともう一度会いたい、話したい、笑いあいたいって思ったんです。とんだ欲張りですね」
夕日に照らされた杏璃の顔はとても悲しげだった。その笑顔には今だそれが叶っていないことが伝わってくる。
菜那城はずっと黙って聞いていたが、ついに何かを噛みしめるように涙を流した。
「えっ!? 菜那城さ……」
「——欲張りなんかじゃないよ! 杏ちゃんは強いね。傷ついてもまた逢いたいと望む、杏ちゃんは強いよ!」
いきなり杏璃から杏ちゃんと呼ばれびっくりしている横で、菜那城は大粒の涙を瞳からボロボロ落として泣いた。
(なんで……自分のことじゃないのに)
自分のことだけでなく他人のことまで涙を流す菜那城の優しさに杏璃もつい涙目になってしまう。柴田と別れたときに全て涙は流しきったはずなのに不思議なことにいくらでも溢れてきそうだ。杏璃は心の中が温かいもので満たされていくのを感じた。
「菜那城さん、続きを聞いてくれませんか? 別れてからの続き。なぜか菜那城さんにはもっと聞いてほしいと思っちゃうんです。いい、ですか?」
次々口から溢れそうになる言葉を押さえて、杏璃はちり紙を差し出しつつ聞いた。菜那城は受け取って涙をふき、こくりとうなづいた。
「もちろん、私でよければ」
「ありがとうございます」
少し赤い菜那城の鼻を見てくすりと笑いが漏れた。そして話を再開した。
想いが枯れるまで泣いた心はかっらぽになっていた。考えることを放棄して家の中に入る。しかしどうしても柴田のことだけは頭から離れなかった。
柴田の無邪気な笑顔、いたずらしたときの悪い顔、「がんばれ」という優しい顔、澄んだ青い空色の瞳、もう二度と見れないと思うほどに一つ一つが胸を温め苦しめる。
(最後に見せた、あの瞳はなんだったんだろう……)
じゃあなと言った時の悲しそうな眼が心のつっかえとなり記憶に残っていた。その後、杏璃は結局一睡もできぬまま朝を迎えた。
「ん〜眠い……」
だらしなく口を開けながら、何度も出てくるあくびをかみしめつつ杏璃は一人、部室へ向かう。夏休みにはもう入ったが今日も部活だ。
(はあ、こんな調子で上手くできるのかな……)
憂鬱な気持ちで部室へと入り、自分の担当楽器フルートの席につく。鞄からいつも通り楽譜を出してセットしていると後ろの席から声が聞こえてきた。
「ねえ、恋が叶う神社って知ってる?」
「いや聞いたことないけど……」
どうやら三年生、杏璃と同じくフルート担当の先輩達が話しているようだ。杏璃はなんとなく、楽譜に目を落としつつも聞き耳をたてた。
「なんか、その神社に七日間通うと恋が叶うらしいよ」
「ええ! 七日間も!? ……なにそれめんどくさいなあ」
「まあ、恋をかなえるためにはそのくらいの努力が必要だってことじゃない?」
「う〜ん、そうかあ……気になる人がいるし行ってみようかな。神社の名前は?」
「菜那城神社っていう所。今度行ってみない?」
(菜那城神社……?)
あまり聞き覚えのない名前に杏璃は首をかしげた。そんなに有名な神社じゃないのだろうか。「縁結び」というキーワードが気になりさらに聞き耳を立ててみる。
「行ってみようよ! 恋結びの神社!」」
「ばーか、恋結びじゃなくって縁結びっていうんだよ。でも恋結びって可愛らしいね」
(恋結び、の神社か……)
もしかしたら私の柴田君への思いも、その神社に行けば———ついつい、そんなことを考えてしまい杏璃は首を振った。昨日あれだけ泣いてあきらめようとさえ思ったのに、ついつい違う方向へ向かってしまう。
一人で悶々と考えている間に3年生たちの話はいつの間にか違う話になっていた。
部活が終わった夕方、杏璃はいつものように練習するのではなく家への帰宅を急いだ。サッカー部は今日から強化合宿に行ってしまっている。こんなボロボロな心で柴田と会ってしまう恐れがなくなって正直良かった。
(まあ、会ったところで話す機会なんてないだろうけど)
きっと今まで通り遠くから見つめるだけだ。前と違うのはその視線に寄せる自分の気持ちだけ。
ふと、夏の熱い風が髪を撫でた。その風の香りに乗って懐かしいベンチ独特の匂いがなぜかした。その匂いで自分がフルートを一生懸命吹いたこと、柴田と他愛ない雑談をしたこと、励まし合ったことが思い出された。昨日まで日常化してたことなのに遠く感じる。つい胸がつまり下を向いた。その時先ほどの3年生たちが話していた言葉が頭をよぎった。
『恋が叶う神社があるらしいよ、恋結びの菜那城神社!』
(恋結び、そこに行けばもしかしたら……やっぱりこのまま終わらせたくない!)
杏璃は顔を上げ、自分の家とは正反対の菜那城神社へ足を向けた。
(この辺、かな?)
制服のまま向かった先は隣町にある大きな山だった。3年生たちが話していた内容だと山の中に建っているらしい。
(歩くと暑いな……。えーっと山を登る階段は……)
頬(ほほ)をつたう汗をぬぐいながらきょろきょろとあたりを見わたしてみる。
(……あ、あった!!)
- Re: 神様による合縁奇縁な恋結び!?【4話更新】 ( No.36 )
- 日時: 2013/08/04 07:39
- 名前: 妖狐 (ID: idHahGWU)
ちょうど木々の間に隠れて細い上り階段を見つける。しかしスペースは人が一人分通れそうなぐらいの石でできた質素なものだった。
(というかどこまで登るんだろう……?)
上を見ても途切れることのない階段にため息が出る。だがここまで来たのだから、と自分を奮い立たせ石階段に生えるコケで滑りそうになりつつ上を目指した。
(もう少し、きっとあとちょっと)
自分を励まし、重たくなる足を上げ登っていく。
「あと一段……!」
登りきった先には大きい神社があった。鳥居の大きさが存在を発する。
「ここが菜那城神社……」
杏璃が想像していたちっぽけな神社とは全く違った。赤く塗られた壁に豪華な金箔、趣のただよう社は口をぽっかりと開けるほどしっかりとしたものだった。
「す、すっごい……!!」
疲れも忘れて杏璃は神社へ駆けた。近づけば近づくほど驚きと喜びが増す。こんなに立派な神社がなぜ有名ではないのか不思議なほどだった。
「そうだ、参拝しなきゃ。確か二礼二拍手一礼だったかな」
忘れかけていた目的を思い出し神社の前に立つ。初詣ぶりなのでやり方はあやふやだったが間違いはないはずだ、たぶん。
お辞儀をして大きな鈴を鳴らすと森中に響き渡った。
「柴田君ともう一度だけ、話せますように」
心の中で言ったつもりが声に出てしまう。それでも杏璃はそれに気づかないほど強く願った。
そうして、杏璃はひとすじの希望を持ちながら家に帰って行ったのだった。
「私はその日から時々ですが通いに来てるんです。それで今日が7日目」
杏璃は通い続けてきた日々を思い出すように告げる。
きっとこの社に住んでいる菜那城は初耳だろう。なぜなら杏璃は一目がない時を忍んできたのだから。そのお陰で人気がない真っ昼間を選んで倒れてしまったのは失敗だったが。
驚くだろうかと反応を見ていると菜那城はうなづいた。
「うん、知ってるよ。杏ちゃんがよく来てくれてたのは知ってる。でもいつも変な時間帯に来るからちょっと気にかけてたんだ。まあ、そのお陰で倒れたときもすぐ発見できたんだけどね」
よかったよかったと笑う菜那城を置いて杏璃の頭は真っ白だった。
(———ん?)
頭の中で菜那城の言葉をリピートする。知っている、たしかに彼女はそういった。人間、パニック状態になる前は案外冷静に考えられるもんだ。
「ええええええっ!」
嘘だと思いたい。なんだって一人でいると思っていたものだから、独り言を数かぎりなく呟いていたのだ。顔が一気に赤く染まった。
「そ、そんなに内容は聞いてないからね! だから、あんまり気にしないで!」
やはり杏璃がずっと独り言をつぶやいているのを知ったうえで首を振っている。穴があったら入りたい気分だ。
(できれば一声かけてくれれば)
あの頃に戻ってやり直したくてもやり直せない悔しさに頭を抱えていると菜那城が腕まくりをした。
「まあ事情も分かったことだし……もう、ここは私がっ!」
輝く瞳で大声を上げ勇ましく立ち上がった。驚きながら杏璃は菜那城を見上げる。
「おいっ」
その時、菜那城の後ろからいきなり低い声がした。知らない間に誰か人がいたようだ。声がしたほうを向くと先ほど出て行ったはずの琥珀がなにか言いたげに立っていた。
「まったく……お前はまた『手伝うよ!』とか言い出すんだろ」
少し怒気をはらんだ低い声が響く。なにで怒っているのかわからず杏璃はさらに困惑した。
「違うよっ!『一肌ぬぐよ』っていうのよ」
「ぬぐな。っていうかどっちも一緒だ!」
対抗する菜那城は琥珀と向き合って強気に言い放つ。しかしそれを琥珀は一喝した。
「一緒じゃないもんっ!」
「他人の話しに首を突っ込むな。お前が入ったらややこしくなるだろう!?」
「杏ちゃんは友達だよ、私が杏ちゃんの願いをお手伝いすることの何が悪いの? 母様だって人を助けろって言っていたわ」
二人は一歩も引きくとなく言い合う。
「とにかくやめろ」
「なんでっ」
「お前が心配だからだよ! いつも無茶ばっかりしてるだろうっ」
「…………っ〜!」
菜那城の言葉がそこでつまった。表には出ていないが琥珀の優しさが詰まった故の言葉だと気づいたからだ。
反論の言葉を探して黙り込む菜那城と勝ち誇った顔の琥珀、その頃杏璃は二人の声に圧倒されて口をはさむ間もなく正座をして見つめていた。
次回 第六話「オオカミさんは心配性?それともただの皮肉屋さん?」