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- Re: 神様による合縁奇縁な恋結び!?【執筆再開!】 ( No.53 )
- 日時: 2014/06/02 22:55
- 名前: 妖狐 (ID: aOQVtgWR)
第六話「狼さんは心配性?それともただの皮肉屋さん?」
杏璃のために手伝うと言い出した菜那城は、琥珀の反論によって言い返せなくなってしまった。
なぜなら琥珀のいかつい口調には菜那城を心配する気持ちが含まれていたかだ。それを知ってしまえば、下手に言い返すことは出来ない。
「お前が心配なんだ」
琥珀の珍しい言葉に、菜那城は面を食らった後、挑むように睨みつけていた視線をおどおどと横へずらした。
「で、でも……」
「でもじゃない。それに他人の色恋沙汰に首を突っ込むのは野暮だ」
「それはそうかもしれないけどさ……」
菜那城が琥珀に押されている。杏璃はどちらの立場に立つべきか心底悩んだ。菜那城は自分の恋を応援してくれている。けれど琥珀の保護者目線の気持ちもわかった。
(だってよくドラマとかで、他人の恋愛事情に深入りしすぎて、逆に恨まれるって展開あるじゃない!? やっぱり第三者が恋に関わることって危ないのかな……)
つい先日見たドロドロとした平安時代のドラマを思い出した。現代の学生の恋愛がそこまで危ういとは思えないが、いつの時代でも愛の形は変わっていないはずだ。
「そ、そんな心配しなくても大丈夫だよ! ほら、私頑丈だし」
なんとしてでも琥珀のお許しをもらいたいのか、菜那城は力こぶを作るような仕草をした。その様子にふっと琥珀は冷たい笑みを浮かべた。
「無理だろ。だってお前、虫けらのように弱いのだから」
杏璃は耳を疑った。
あれ、ツンデレな琥珀さんがいない。今の言葉はきつい言葉の中に優しい気持ちは潜んでいなかった。完全に馬鹿にした言葉だ。
「な、人が下でに回ればいい気になりやがって……」
今度はいつもの菜那城さんがいなかった。あの優しい笑みがすっと消えて琥珀へ怒りを燃やしている。
——神様はとても感情の抑揚が激しいようだ。
杏璃はついていけず、道の地蔵になることを決め込んで口を閉ざした。まさに、触らぬ神に祟りなし、と言ったものだ。
「ぜーったいに杏ちゃんのお手伝い、するんだから! もう野暮でもイボでもいいわよ!」
いや、イボって菜那城さん。道の地蔵、杏璃は一人で突っ込む。
琥珀も一気に怒気を強めた。
「お前はいつもいつも、勝手に決めて突っ走りやがって……! お前がその娘にかかりっきりの間、この神社の催事はどうするんだよ!」
「催事っていう催事もないじゃない!」
「じゃあ、当番制の家事はどうすんだ! 絶対お前、放り出すだろう」
この社の家事は当番制だったのか、とう杏璃は一人で発見に心を染めた。当番制、なんとも生活感溢れる言葉だ。
「あ! 琥珀の本音はそれだっ」
突然、菜那城は叫んだ。
「本当は私が家事をしなくなることに躊躇して止めたんでしょ。心配なんて実はしてないんだ」
「ああ、そうだ」
琥珀はきっぱりと言い切った。その即答ぶりに今度こそ菜那城は荒ぶるように尻尾を振った。
「琥珀の言葉を少しでも信じた私が馬鹿だった! なにがなんでも杏ちゃんの恋のキューピッドになってやるんだから。よろしく、杏ちゃん!」
突然向けられた言葉に条件反射で杏璃もうなづく。
(あれ、今菜那城さんは恋のキューピッドになるとか言った……?)
遅れた疑問に首をかしげた時、杏璃がぎゅっと抱き着いてくるのが分かった。
「よし、契約完了!」
その言葉に琥珀が鋭い舌打ちをする。それはもう、背筋が凍るぐらいすさまじい物だった。
「あ、あの契約って……?」
琥珀の人を射殺すような視線に怯えつつも、菜那城を見上げると彼女はにっこりと笑った。
「杏ちゃんと私の契約だよ。私は杏ちゃんの恋結びをするためにお手伝いするのが契約内容。恋結びがめでたく成功すれば杏ちゃんに幸福が降りかかり、失敗すれば杏ちゃんに不幸が降りかかる仕組みになってるの」
「は……?」
杏璃は眼をパチクリさせた。なんだそれは、聞いてないぞ。どこからそんなイベントが発生したんだ。
「ほら、これが契約の証。肩に狐のマークがあるでしょ」
指さされた場所を慌てて服をめくりあげて見つめる。二の腕と肩の合間部分に狐の模様が焼印されたかのようにあった。どうやらあまり人目のつかないところにと考慮された場所らしいが、そんなこと今はどうでもよかった。
「いつの間に!」
「さっき杏ちゃん頷いたでしょ。その時に」
不意打ちのごとく訪れた契約確定の瞬間に愕然とする。あのとき、あの曖昧なうなづきが命取りとなったらしい。
「なんで契約を……?」
「だって恋結びが成功したとき幸運が降りかかるんだよ。それってラッキーじゃない?」
いやいや、逆に失敗したとき不幸が降りかかるんですけど!?
無言の否定をするが虚しく菜那城にはまったく伝わらなかった。
(神様とか、契約とか、ほんと突飛すぎる……)
改めて杏璃は深いため息をついた。
「よろしくね杏ちゃん。私、恋結びが成功するように全力を尽くすから」
笑顔の神様に杏璃はもう、乾いた笑みを返すしか術はなかった。
「ったく、勝手にしろ! 馬鹿菜那城っ」
琥珀の方はキレたように荒々しく部屋を出て行った。契約が完了してしまってはもうどうやったって止められないのだ。
「これから私たちは切っても切れない契約で結ばれた戦友だ!」
やけに楽しそうに菜那城は言った。それを見てしまえば、今更嫌だ、なんだ、と騒ぐ気さえそがれてしまう。
もう、腹をくくろう。神様が味方に付いてくれるなんて最強じゃないか。
いい方向に考え直す杏璃は、よろしくと差し出された手を握った。
「さあ、杏ちゃん恋結び大作戦開始よ!」
「はい」
狐の神様と恋する少女の恋結び大作戦、はじまりはじまり。