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Re: 夕闇茜空【共通ルート】 ( No.14 )
日時: 2013/07/29 17:57
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: KZLToguX)

   【第五話】



 家を出てから、私達は南に向かって歩いていた。
 二ノ宮家は住宅街にあって、ここから二十分ほど歩けば駅に着くという。
「まずは駅周辺からだなー」
「そうだね。白金高校もあるもんね。…そういえば沙依さんって、夏休み中は白金高の課外に出るんだよね」
 旭の言葉に頷く。

「そうだよ。クラスは一組みたい。四人とも白金高だっけ」
「うん、クラスはバラバラだけどね。一組なら旭と同じだな」
 智晴が言い、圭太が旭の肩を叩いた。
「アサがサヨをエスコートするってさ。な、アサ!」
「うぇ!?う…うん」
 微かに頷くのが見えた。

「そっか。じゃあよろしくね」
「よ…よろしく、沙依さん」
 …う〜ん、何か気に食わない。

 私は旭の顔を覗き込むようにして言った。
「ねぇ、その『さん』付けはやめてもらいたいんだけど」
 すると、旭はおどおどし始めた。
「えぇっ!?で、でも…」

 すると、今まで黙っていた凌輔が口を開いた。
「これから嫌でも共に悪霊を払うことになるだろ。『さん』じゃよそよそしくてこっちがうざったく思う」
 智晴も笑いながら言う。
「だな。せめて『ちゃん』にすればいいだろ。…ってか凌輔、それってお前が名前呼び捨てしたいからだろ…ぎゃっ!」
「うーるーせーえー!!」

 凌輔が智晴に跳び蹴りをかましているのをよそに、旭は私に向き直った。
「じゃあ…沙依ちゃんで」
「よし、おっけー」
 そう返事をすると、旭は照れ臭そうに笑った。


 それからお互いの話をしながら、私達は歩き続けた。
「サヨっていつから力が使えるようになったんだ?」
「えーっと、確か小一の時だったかな。皆は?」
「だいたい皆小三くらいからだな。で、 一緒に払うようになったのは小四の時からだったっけ」

「なあなあ、沙依の高校の制服ってセーラー?」
「そうだよ…っていきなり何その質問!?」
「だってさ!よかったな凌輔」
「ちちち違ぇよ!セーラー派じゃねえよおれ!!」

「ずっと気になっていたんだけど、凌輔って身長何センチ?」
「一六二センチだよ。ちなみに僕らは一七十代」
「出鱈目言うな、一八〇だ!!てか変な質問すんな!!」
「一八〇って言い訳するには無理があると思うよ?」
「ほんとだから!!」

「この中で一番頭がいいのは誰?」
「そりゃオレ——」
「いーや、智晴だな。何だかんだ言って圭太が一番悪いだろーが」
「んなことねえよ!」


 歩いているうちに、いつの間にか駅の近くまで来ていたようだ。
「いつの間にか人が増えてる!あ、時計塔もあるんだ」
「駅周辺が一番栄えているからな〜、白金町は」
 その時、数十メートル先にあった時計塔が、十二時を示す鐘の音を鳴らした。

「ほら、昼飯」
 ふいに凌輔が、私の鼻先に紙袋を突き出してきた。
「わっ!いつの間に買ってきたの!?しかも全員分!?」
「へっ、おれは俊足だからな」

 得意げに胸を反らす凌輔を見ていたら、何だか可愛く思えてきて、気が付いたら頭を撫でていた。
「こ…こら!何してんだよ!子供扱いすんな!」
「あ、ごめんごめん。私、可愛いもの見るとつい頭を撫でちゃう体質なんだ」
「可愛い言うな!」

 不満げに口を尖らせながら、凌輔が残りの紙袋を三人に渡す。
「これ、俺らが通い詰めてるパン屋の商品なんだ。あ、代金はいらないからな」
「え、いいの!?」
 そういうことにはつい遠慮がちになってしまう私に、圭太がぽんと肩を叩いた。
「当ったり前だろ!今日ぐらい奢らせてくれよ!」
「ありがとう」
 圭太の仕草や言動には、安心感が含まれているようだ。



 昼食を済ませた私達は、今度は駅のバス停に向かっていた。
「これから無料バスに乗って、少し田舎の方に行ってみよう」
「無料バスなんてあるんだ!」
「まぁ、白金町も東京とかと比べりゃあ田舎だしな」

 駅に着くと、ちょうど無料バスが到着するのが見えた。
 急いで乗り込み、バスに揺られることおよそ十五分。

「わぁ…ザ・田舎って感じ!」
 窓越しの風景は、駅周辺とは打って変わって、田園が広がっていた。
「白金の約六割はこんな感じだよ」
 隣に座る旭が説明してくれた。

 それからおよそ十分後、私達はバスから降りた。
 四人に導かれ、少し歩く。するとすぐに、静かに佇む湖が視界に広がった。
「わぁ、おっきい!」
「これは白夜湖。結構有名な観光スポットなんだ。それとあともう一つ、オレ達に関係することがあるんだ」
「関係すること——」

 尋ねようとしたところで、私の言葉は途切れた。
「ん?どうしたんだ、サヨ?」
「何かあった?」
 どうやら四人は気付いていないようだ。だけど今、確かに感じた——!

「——近くに、悪霊がいる…!」