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Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.152 )
日時: 2013/12/29 18:48
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: Y4EbjjKp)

   【旭編 第四話】



 それから十数分歩いて、目的地である風祭神社に着いた。
 かなり大きくて敷地も広いが、人はおらずがらんとしている。

「うわー、おっきいねぇ」
 真っ赤な鳥居を見上げながらくぐる私に、旭が説明してくれた。

「ここ風祭神社は厄除けや除霊で有名なんだ。
 今はいないけど、年始めはたくさんの人が訪れるんだよ」
「へぇ〜」
 こういうところに来ると祈祷師の血がさわぐ私である。

 拝堂の前まで来ると、旭が言った。
「いつもここでお清めをするんだ。沙依ちゃんは少し下がっていて」
「分かった。でもその前にお参りさせて」

 私は慣れた動作で参拝し、参道からおりた。
 それを確認してから、旭はお清めを始めた。

 二礼して両手を合わせ、目を閉じ何かを唱え出す旭。
「………(ブツブツ)」

 すると、どこからか霊力を含む青い煙が発生し、旭の身に纏っていった。
 一般人には見ることの出来ないであろう煙は、
 旭の体内から汚れを吸収しているように見えた。

 私はただただ見とれるばかり。

 やがて煙は自然消滅し、旭が一礼した。
 これで終わりなのだろう。
 と、その時だった。

『……少女、何者だ』

 不意に、男なのか女なのか分からない声が聞こえた。
 少女って、私のこと?

「えっ?」
 私は辺りを見渡すが、私達二人以外は誰もいない。
 旭もキョロキョロしている。

「だ…誰?」
 思わずそう呟くと、すぐに返答があった。

『我は風祭の神だ』

 …は?
 "神"ですって?

「風祭の神…!?そんなわけ…」
 私は信じられずに反論する。
 しかし、旭は目を見開きながら首を振った。

「いや…神だよ。言霊の一つ一つに強い霊力を感じる。
 それに、この声は耳から聞こえてくるんじゃない。頭に直接響いている…!」

 そこでようやく気付いた。
 確かに、声は耳からじゃなくて、頭の中から聞こえてくる。

 それに、言霊だけでなく空気からも、清らかな霊力を感じる。
 つまり神が私達のすぐ傍に降りてきた、ということなのだろうか。

 神だと思われる声は続ける。
『さぁ、答えよ。貴様は何者だ。何故人間が悪霊の紋を持っている』

 "悪霊の紋"?
 それってまさか…!

 私はガーゼで隠している九頭竜の噛み跡を押さえて口ごもった。
「こ、これは…」
 どうしよう。何と説明すればいいのだろう。

『それは九頭竜の紋であるな。この地を乗っ取ろうとしている愚かな悪霊…
 その紋を人間が持っているとは…なんと愚かな者よ』

 その言葉に、私は恐怖で凍りついた。


 神は怒っているのだ。
 九頭竜の紋を持つ私に対して…!


 言葉が出ないでいると、旭が叫んだ。
「ち…違うんだ!彼女は無理矢理紋を受けて…!」
 しかし旭の弁解も虚しく…



『愚か者よ、受けるがいい。——清らなる地へ踏み込んだ報いを』



 次の瞬間、身体に激痛が走った。

「っあああああああああ!!」
 あまりの痛みに立っていられず、地面に倒れてのたうち回る。

「沙依ちゃんっ!!っく…何で動けないんだ!!」
 旭の声が、どこか遠く聞こえる。

 苦しい、痛い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い。

 しかし、激痛は長くは続かなかった。
 ふっと痛みが遠退いていく。

「ううっ…」
 脱力して地面に突っ伏す私に、神は冷酷に告げた。

『貴様に呪いをかけた。二度とここに近寄るな、愚か者よ…』

「の…呪い…!?」
 震える声で呟く旭。

「何で…何でだ!沙依ちゃんは悪くないのに…何で呪いなんかかけたんだ!」
 旭は訴えるが…

 神の声は、もう聞こえなかった。