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- Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.155 )
- 日時: 2013/12/31 12:45
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: qZbNjnvV)
【旭編 第五話】
私に呪いがかけられた…?
衝撃的な事実であるにも関わらず、私は落ち着いていた。
しかし…
「嘘だ…こんなの嘘だ!!」
旭は、まるで自分のことであるかのように狼狽していた。
「沙依ちゃんは何も悪くない!全部九頭竜のせいだ!
なのに何故、神は沙依ちゃんを呪うんだよ!」
「旭…」
今までにないくらい蒼白い顔をして叫ぶ旭に、私は遠慮がちに言った。
「…私、早くここから出たほうがいいかも」
旭ははっとしたような顔をすると、しばらく沈黙してから
「…そうだね」
消え入りそうな声で返した。
交わす言葉もなく、揃って出口に向かう。
ちらりと旭を見るが、その表情は俯いているため見えない。
きっと、自分が呪いをかけられた時と重ね合わせているのだろう。
その対象である私が下手に喋ったら、旭はもっと狼狽してしまうかもしれない。
だから、何と声をかけていいか分からなかった。
鳥居をくぐって神社を出ると、不意に足音が聞こえた。
無意識に音がした方を向くと、そこには…
「ふ…史人さん!?」
そう、歩み寄ってきたのは、九頭竜こと史人さんだった。
瞬間、顔を上げた旭が、衝撃を受けながらも怒りを滲ませた目で睨んだ。
「九頭竜…全部…全部あなたのせいだ!!」
そのまま旭は九頭竜に飛びかかろうとしたが、
私はあることに気付いて旭を止めた。
史人さんは、いつものように笑みを浮かべておらず、ずっと俯いているのだ。
それに、ただならぬ霊力を発している。
「待って旭!…史人さん、何かおかしくない…?」
旭も気付いたらしい。訝しげな顔をして史人さんを見ている。
すると、史人さんが顔を上げた。
同時に私達は目を見開く。
史人さんは、唇の端と右のこめかみから、血を流していた。
そこでようやく史人さんが口を開く。
「風祭の神によって、仮契約が無理矢理解除されたんだ。
おそらく自分の呪いを浸透させるためだろうね」
「解除!?」
私はガーゼを剥がして、噛み跡があるべき部位に触れる。
しかし、何の感触もなかった。
「じゃあ、史人さんが血を流してるのって…」
「ああ。解除された反動さ」
そう言って、史人さんは血を拭った。
「…それを伝えるために来たのですか?」
旭が尋ねると、史人さんは首を横に振った。
「それだけじゃない。時和旭君、君に提案があるんだ」
「え?僕に提案…?」
史人さんは頷き続ける。
「沙依を生け贄として渡してくれないかな」
旭は眉をひそめた。
「そんなの答えるまでもありません。沙依ちゃんは渡さな…」
しかし、史人さんが言葉を遮り続けて言った。
「悪霊の生け贄になれば、呪いは解かれる。
呪いより邪悪である悪霊の俺と契約すれば、呪いは無効化されるんだよ?」
「——っ!?」
旭が目を見開いた。
私は何も言えなかった。
これ以上、旭を悩ませたくないという気持ちでいっぱいだからだ。
それに——まだ生け贄になりたくないとは思っていない。
だって、私が生け贄になれば、何の被害もなく
史人さんを鎮めることができるのだから。
「君が決めるんだ、時和君。さぁ…どうする?」
旭は沈黙したままだ。
握りしめた手が、小刻みに震えている。
史人さんも押し黙って、旭の返答を待っている。
——やがて、悩みに悩んだ末、旭は顔を上げ真っ直ぐに史人さんを見て…
きっぱりと告げた。
「その提案、断ります」