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- Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.164 )
- 日時: 2014/01/03 19:13
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: TaF97fNV)
【旭編 第六話】
旭の返答はノーだった。
しかし、史人さんは表情を崩さなかった。
沈黙の末、静かな声で問いかけた。
「…へぇ、君は沙依を見殺ししたいのかな?それとも…」
瞬間、恐ろしいほどの殺気が充満し…
「自分なら救ってやれると思ったのかなぁ!?」
目が赤く変化し、強力な霊力が広がる。
そして唐突に黒影の刃を放った。
「その通りです。沙依ちゃんの呪いは僕が解いてみせる!」
旭は素早く避けると、背負っていたリュックから弓と矢を取り出した。
青い弓に矢をつがえ、史人さんを目掛けて引く。
「…これだから人間は愚かなんだ。できもしないことをやろうと豪語する」
史人さんは標的から外れようとジャンプする。しかし、
「確かに豪語かもしれない…でも…」
史人さんが上に跳ぶことを予測したのか、旭は史人さんの脇腹に矢を命中させた。
「うぐっ…!…このっ…!」
史人さんは着地すると、恐るべきスピードで旭を蹴った。
「——っ!」
腕でガードしたが吹っ飛ばされる旭。史人さんは続けてキックをかます。
一回、二回、三回…足が振り下ろされるたび、傷が増えていく。
「っぐ…がはっ…!」
「旭!」
私が加勢してはいけない気がするため、私はただ見ていることしかできなかった。
これは、旭と史人さんの二人の戦いなのだ。
脇腹の矢を引っこ抜きながら、史人さんは旭も見下ろす。
「く…」
連続で攻撃を受けた旭の口の端から血が流れた。
「…でも、これだけは明確だ」
かなりのダメージを受けているにも関わらず、
旭は史人さんを見据えながら立ち上がった。
「あなたに沙依ちゃんを渡したくない!」
「——!!」
私は目を見開いた。
「これは僕の我が儘だけど…でも、この想いだけは譲れない!」
旭の言葉が、私の心の奥深くへと浸透していく。
——ザシュ
「うっ…!?」
その音と声にはっとして我に帰る。
すると、旭が目の前の史人さんに矢を深々と突き刺している光景があった。
弓は旭の足下に落ちている。
旭は弓を使わず手で刺したのだ。
「今、あなたは弱っている。だから、祈祷するには絶好の機会だ」
史人さんの身体を貫通した矢に、日光が反射する。
「ゆ…油断…していたようだね…」
史人さんは自嘲気味に言うと、旭から二、三歩離れて矢を抜いた。
そして身を翻すと、大きくジャンプして木に跳び乗り、
そのまま木伝いに移動してその場を後にした。
「史人さん!」
呼び止めようとする私の横で、旭は携帯を取り出し電話をかけた。
「もしもし圭太君っ、今九頭竜と戦っていたんだけど逃げられて…
…うん、だから追ってほしいんだ…うん、よろしく!」
旭は携帯をしまうと、弓を拾って史人さんが去っていった方向を見据えた。
「…行こう」
その呟きを聞いた瞬間、
「何言ってんの!?」
私は旭の左腕を強く掴んでいた。
「沙依ちゃん…?」
驚いた表情を見せる旭に。
「旭…こんなに怪我してるじゃない…!」
「う…こ、このくらい平気…」
強がる旭に、私は叱りつけるように言った。
「ダメ!旭が無理して倒れるところなんて見たくない!」
「…!」
旭はさらに驚くと、しばらく黙ってから頷いた。
「そうだね。ごめん…」
シュンとした表情でそう謝ると、左腕を掴んでいる私の手の上に
自分の右手を重ね、微笑んで言った。
「…ありがとう」
ドキッ、と心臓が音をたてる。
私は腕から手を離すと、「高峰家に戻ろう」と呟き、歩き始めた。