コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.165 )
日時: 2014/01/05 22:37
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: 8keOW9sU)

   【旭編 第七話】



 傷ついた旭を庇いながら歩き、高峰家に辿り着いた。
「旭さん…!?何があったのですか!?」
 驚く高峰さんに、私に呪いがかけられたことを明かすと、彼女は驚愕した。

 そして、私にかけられた呪いがどんなものなのか検証すべく、
 呪いについて研究している祈祷師を数人呼び出した。

 高峰さんに休んでいるように言われた旭は、
 私を心配そうに見てから、別室に移動した。

 私は祈祷師達に言われるがまま、仰向けに寝転がってじっとしていた。
 睡眠薬を飲まされたため、どんな風に検査をしたかは分からない。
 ただ目覚めた後、祈祷師達が酷く困惑している声が、ずっと聞こえていた。



 午後七時、祈祷師達が帰り、私と旭は高峰さんと対面して座っていた。
 遥姉さんへの連絡は高峰さんがしてくれたらしい。

「…検証の結果、沙依さんの呪いの正体が判明しました」
 高峰さんは言いづらそうにきりだした。
 その様子から、呪いが深刻なものであることが分かる。

 私の心は不安でいっぱいだ。
 隣に座る旭も緊張している。

 ……しばらく沈黙が続いたあと、
「一言言うと…最悪な内容でした。沙依さん、あなたの呪いは…」
 高峰さんが意を決したかのように告げた。



「次の満月の晩に命を奪う…呪いです」



 ——私は何も言えなかった。


 命を奪う。
 つまり、私は死ぬってことであって。

 しかも、昨日ふと見上げた月は、ほとんど満月に近い形をしていて。



「そして満月の晩は…明日なのです」



 私の顔は、これ以上にないほど青白くなっているだろう。
 気がつくと、全身が震えていた。




「……明日…死ぬ…沙依…ちゃんが…?」



 長い長い沈黙の末、隣から虚ろな声が聞こえてきた。
 振り向こうとする。しかし…

「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!嘘だっ!!!」

 旭はそう叫んで、部屋を飛び出した。

「待って旭!」
 身体の震えを忘れ、すぐさま追いかける。

 旭は廊下を走り抜けると、縁側から庭へ出て立ち止まり、


「どうして!?何でっ!?何でなんだよおおおおおおおおおっ!?」


 夜空に輝く月に向かって絶叫した。

「あ…さひ…」
 私も庭へ出て、旭に近付く。

 旭は俯いて呟く。
「何でっ…何で、沙依ちゃんが明日…っ!どうしてっ…!」


 自分のことであるかのように苦しむ旭。
 そんな旭をただ見つめ、立ち尽くす私。

 まるで立場が逆じゃないか。

 …それは、何故だ。


「ねぇ、旭…何で旭はそんなに苦しむの?」

 ぽつり、と疑問がこぼれる。
 そうだ、呪いをかけられた直後もそうだった。


「何でそんなに、私のことを想ってくれるの…?」


 ——次の瞬間




「君が好きだからだよ…っ…!」




 私は駆け寄ってきた旭に抱きしめられていた。



「だんだん沙依ちゃんに惹かれていって…
 君の優しさや知らなかった一面、君の全てを守っていきたい…そう思えたのに…
 僕は…どうすれば…」



 耳元で響く旭の声、

 重なった身体から伝わる、速めの鼓動、

 背中に回された、少し震えている腕。

 旭が心に秘めていた気持ち。


 その全てが私の心の奥底に手をかけた。



「旭…私の呪いを解くって言ったよね…?」


 旭が言ってくれたように、私も言うの。
 私の…想いを。


「だからお願い…解いて」

 理不尽かもしれない。無茶だと思われるかもしれない。

 それでも言うのは、旭が何て答えてくれるか…



「私…信じているから」



 最後にそう言って、私は旭を抱きしめ返した。
 華奢だと思っていたけど、本当は筋肉質だった身体を。

 すると、さらに強く抱き寄せられた。


「うん…約束するよ」

 もう、旭は震えていなかった。



「君の呪いを解いてみせる…そう、君は僕が守る」



 その言葉に迷いはなかった。
 凛とした声で、旭は誓った。