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Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.170 )
日時: 2014/01/10 22:54
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: bHw0a2RH)

   【旭編 第八話】



「…約束するから」

 旭はもう一度強く宣言して、私から身体を離した。
 すると、ちょうど高峰さんが、部屋の奥から小走りで出てきた。

「あ、旭さん…」
 高峰さんは気まずそう旭を見つめている。

 するとすぐに、旭は頭を下げた。
「取り乱してしまいすみません。
 …お祖母様」
 旭は顔を上げ、強い意志のこもった目をして高峰さんに言った。


「僕は沙依ちゃんの呪いを解きます。
 ですがその前に、九頭竜を祈祷しなければなりません」


 そこで私は、九頭竜祈祷という本来の目的をようやく思い出した。
 私がすぐさま思ったのと同じことを高峰さんが口に出す。

「沙依さんの呪いを解くなら、九頭竜祈祷は他の祈祷師に任せるべきです」
 しかし、旭は首を振った。

「僕は九頭竜に言いました。あなたに沙依ちゃんを渡したくない、と」
 そうだ。旭はそう宣言したのだ。

「つまり僕は、沙依ちゃんを狙う九頭竜を祈祷する、ということです。
 祈祷すれば、九頭竜が沙依ちゃんを奪うことはありませんから」
 旭はもう一度頭を下げた。

「ですから、解呪法を教えてください。
 誰よりも呪いに詳しいあなたなら知っているはずです、お祖母様」

 いてもたってもいられなくなり、私も頭を下げる。
「お願いします!私…旭のこと信じてますから…!」

 高峰さんはしばらく黙っていたが、やがて答えてくれた。
「…分かりました。あなた方のその強い意志に応じて教えましょう。
 ただし、条件があります」

 私達は顔を上げた。
 高峰さんは鋭い眼差しで、その条件を告げた。

「実は二人が部屋を出た直後、智晴さんから電話がありました。
 白夜湖で九頭竜を見つけ、かなり追い詰めたそうですが途中で逃げられ、
 智晴さん達もかなり攻撃を受けたので追うのを断念したそうです」

 つまり、九頭竜はダメージを負ったまま逃走しているということだ。
 高峰さんの次の言葉は、言われる前に分かっていた。


「旭さん、沙依さん。あなた方二人で九頭竜に止めを刺すのです」


「「はい!!」」
 私達はそろって返事をした。

「私の予想では、九頭竜は西の沼へいると思われます。
 あの沼や白夜湖には、悪霊の傷を癒す力がありますから」
 西の沼…確かに可能性は高い。

「すぐに行こう」
「うん!」
 すぐさま武器を用意し、出発準備が整ったところで、
 高峰さんが見送るついでに言った。

「今は悪霊が活発化する時間帯です。…くれぐれも気を付けなさい」
 私達は頷くと、一礼してから高峰家を後にした。



「…旭」
「ん?」
 走りながら尋ねる。

「昼間の傷はもう平気なの?」
 すると、暗闇に慣れた目に、旭の笑顔が映った。
「うん、たくさん寝たからね。大丈夫だよ」

「…そう」
 私はそう相槌を打って、再び黙って走った。


『君が好きだからだよ…っ…!』


 あの時の言葉が、脳内で木霊する。

 …そういえば私、旭に返事をしていない。
 ただ「信じている」と言って抱きしめただけ。


 でも、私が何て答えるか、もう分かっているよね?旭。



 ——私も、旭のことが好き。って。