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Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.177 )
日時: 2014/01/13 11:43
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oq1piOCI)

   【旭編 第十話】



「何っ!?」
 切れる音と共に、九頭竜が驚いた声をあげる。
 私も目を見開いた。

 旭の右手には、短剣が握られていたのだ。

 さっき取り出したのは、その短剣だった。
 鞘はポケットから少しだけはみ出ている。

 旭は軽く笑みを浮かべて言った。
「弓矢は持っていける矢の数に制限がかかってしまう。
 弾丸のように小さくはないからね。
 だから、僕は圭太君に、剣術を教わったんだ」

 それを聞いて、私は思わず旭に尊敬の眼差しを向けた。
 自分の武器の特訓も、予備の武器の特訓も行っていたなんて…!
 簡単にできることではない。私だったら両立できないだろう。

 旭は再び短剣で攻撃し始めた。
「君にそこまでの才能があったとはね」
 九頭竜は牙で剣を弾く。

 すごい…弓矢の腕も確かだけど、至近戦も劣ってない!

「はあああっ!」
 旭が振りかざす短剣と、九頭竜の牙。互いに衝突し合い、火花を散らす。

 やがて剣の弾き合いは、鍔迫り合いへと突入した。
 ギチギチと音を立て、旭の短剣と九頭竜の牙が互いを押し合う。

「ぐっ…!」
 やはり、九頭竜のほうが力が強いようで、旭は少しずつ押されていった。

 すると旭は後ろに大きくジャンプし距離を置くと、背負った矢筒から矢を取り出し、
 素早く左手の弓につがえ、放った。

 九頭竜にとって想定外の攻撃だったのだろう。
 矢は腹部と思われる部分に突き刺さった。

 すごい!剣と弓矢の連携技も出来るんだ!
 と、私が感心していたその時…

「な…なかなか…手強いようだね…」
 九頭竜はそう言いながら、いつもの人間姿に変化した。

 私も旭も眉をひそめる。
 どうして人間姿に戻ったの?戦意喪失?
 ——と、私達が油断していた隙に…

 九頭竜…いや、その姿なら史人さんと言った方がいいだろうか…の傷口から
 細長い蛇が一匹飛び出し、旭の足首に巻き付いた。

「なっ!?」
 旭が驚いているうちに、他の傷口からも蛇が出てきて、
 旭の足や腕、腰に巻き付いていった。
 そして…

 蛇たちは一斉に、旭を締め付けた。

「あうっ…ぐっ…あ……!!」
 旭が苦しみの声をあげる。

「旭っ!」
 私は思わず旭に駆け寄ろうとしたが…

 ——ズキッ
「いっ……!」
 一歩踏み出しただけで、刺すような痛みに襲われ、踞った。


 なんで…なんで動けないの。
 なんで私はこんなに無力なのっ…!?

 悔しい、悔しい悔しい悔しい悔しい、自分が悔しい、情けない情けな——


「さよ…り…ちゃん…」

 旭の声にはっとして、私は顔を上げた。
 旭は苦しそうに顔を歪めながらも、しっかりと私を見ていた。

 そして…いつもの笑顔を浮かべた。



「僕は…だいじょ…ぶだから……信…じて」



 頬を涙が伝った。

 これは痛くて辛い涙?
 旭がやられてしまうのが怖い涙?
 ひどく傷心して悲しい涙?

 ……いや、そんなんじゃない。


 嬉し涙だ。


 私は涙を溢したまま、コクンと頷いた。
 旭はそれを見て、もう一度微笑むと——

 短剣を握った右手を、蛇に締め付けられながらも高く振り上げ、


「はああああああああっ!!」


 一気に振り下ろし、身体に絡みつく蛇たちを切断した。