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- Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.178 )
- 日時: 2014/01/12 15:56
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: /qYuqRuj)
【旭編 第十一話】
「うああああああああああああ!!」
蛇を切断され、史人さんが絶叫する。
同時に、旭に巻き付いていた全ての蛇が、旭から離れていった。
荒い呼吸をする史人さんが、血のように赤い目で睨み付ける。
「よ…くも…やって…くれたな…」
言いながら、史人さんは己の右手を鋭利な刃へと変化させた。
締め付けから解放された旭も、肩を激しく上下させる。
「そろそろ…決着を…つけましょうか…」
二人は呼吸を整えつつ睨み合い…
一斉に飛び掛かった。
カキィン——
ぶつかり合う刃と刃。月光を反射し、火花を散らす。
二人は続けて剣を振るった。
「やあっ!」
「はっ!」
「うぐっ!」
「たぁ!」
時々、刃は服や素肌を掠める。
そのたびに、傷が増えていく。
「はあっ!」
再び鍔迫り合いとなった。
二人は睨み合いながら、相手を押し合う。
さっきは史人さんのほうが強かったが…
今は旭のほうが勝っている!
「僕はっ…負けない…!!」
旭がそう言った、その時だった。
「黙れ…黙れっっ!!」
叫ぶと同時に、史人さんが強烈な霊力を放った。
その霊力は、旭を思いっきり吹っ飛ばした。
「…………!!」
声にならない声を上げて、空中を舞う旭。
その身体は、私の横に立つ木に強く打ち付けられた——。
「あ…旭!」
顔から血の気が引いていくのを感じながら、旭に駆け寄る。
旭は——苦し気な表情のまま、気を失っていた…。
「旭、旭っ!あさっ…」
はっとして後ろを振り返る。
そこには、勝ち誇った表情を浮かべながら近付いてくる史人さんの姿があった。
「あははっ…どうやら俺の勝ちらしいね。
…さぁ、フィナーレとしよう」
刃化した右手をギラリと輝かせ、楽しげに告げる。
私は痛む身体に鞭を打って旭の前に立ち塞がり、
史人さんに向けて指揮棒を構えた。
私が、私が旭を守るんだ。
「風よ、我が命に従え!斬撃!」
得意の風技を発動させる。
しかし…風の刃は、何もない空間を裂いただけだった。
史人さんの言った通り、呪いの仕業で力を上手く使えない。
「くっ…斬撃!斬撃、斬撃っ、斬げ——」
瞬間、猛烈な痛みが全身を襲った。
「う…あああ…!」
叫びながら横に倒れる。
——旭と史人さんを隔てるものがなくなった。
霞む視界が、旭の目の前に立ち刃を高々と振り上げた史人さんを映す。
「や…め…て……」
そんなこと言っても、相手がやめるわけがない。
「…終わりだ」
冷酷な声が告げた。
これで終わりなの?
旭は、死ぬの?
そんなのいや…嫌だ嫌だ嫌だ。
「旭っ!!」
私が叫んだ、その時、
旭が、ぱっと目を開いた。
そして、
「は…ああああああああっ!!」
右手に握ったままだった短剣を、史人さんの心臓に突き刺した。
「ぐ…はっ…!?」
信じられない、とでも言いたそうな顔を見せ、
「あ…ああああああああああああ!!」
絶叫を上げる史人さん…否、九頭竜。
そして、身体が黒い霧となり、絶叫が小さくなっていき…残ったものは、無。
九頭竜は完全に祈祷されたのだ。
私はしばらく呆然としていたが、はっと我に帰った。
「あさ…」
——次の瞬間、腕をぐいっと引っ張られ…
旭と私、互いの唇が重ね合わされた。
驚きで一瞬だけ身を固くしたが、除々に心地よさを覚え、身を委ねた。
旭が愛しい。
愛しさで、胸がいっぱいになる。
心地いい——。
やがて唇を放すと、旭はやわらかく微笑んで言った。
「沙依ちゃん。もう一回ちゃんと言わせて」
「…うん」
腕を掴んでいた旭の手が、背中に回される。
「僕は、君が好きだ」
「私も、あなたが好きです」
背中に回された手が、私を旭へと引き寄せる。
私達はもう一度、唇を重ね合った。