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Re: 君と進む未来なら【旭編】 ( No.183 )
日時: 2014/01/13 22:45
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: LCLSAOTe)

   【旭編 第十二話】



 そこらじゅうに放った矢を回収し終わり、旭が言った。
「片付けも済んだことだし、高峰家に戻ろう。そして解呪法を教えてもらおう」
 うん、と頷こうとしたその時、

「旭さん、沙依さん!」

 その声にはっとして振り向く。
 そこには、小走りでこちらに向かってくる高峰さんの姿があった。

「お祖母様!わざわざ来てくれたのですか!?」
 高峰さんは軽く頷き、ゆっくりとあたりを見渡して尋ねた。

「九頭竜は…!?」
「完全に祈祷しました」
 その答えに、高峰さんは驚きの声を上げた。

「お祖母様、約束通り九頭竜を倒しました。なので解呪法を教えてください」

 旭のその言葉を聞くと、高峰さんは表情を引き締めた。
「…分かりました。教えましょう」
 そして、厳かな口調で説明を始めた。

「解呪するには、呪いをかけられた者と、もう一人の人間が必要となります。
 二人で清らかな水に浸かり、解呪の呪文を唱えれば呪いは解かれます。
 この沼の水は非常に澄んでいるので、ここで行うことができます。
 しかし、この解呪法には問題点があるのです」

 高峰さんは一旦置いてから、その問題点を話した。
「重度の呪いを解くには、それなりの代償が必要となります。
 もちろん、この解呪法も例外ではありません。


 この解呪法の代償は…存在です」


「存在…?」
 高峰さんは頷き、言った。



「呪いが解かれる代わりに、解呪者二人の存在が人々の記憶から消えるのです」



 私達は驚愕した。

「存在が…記憶から消える…!?」 旭が目を見開いて口に出す。

「つまり、私達がいたっていうことを、
 この世の全ての人間が忘れてしまうってこと…ですよね?」

「はい。それに加えて、解呪者の持ち物等も消滅します。
 ただ、解呪者二人はお互いの存在を忘れません。
 それと、万能の解呪法なので、同時に旭さんの呪いも解かれます」

「僕の呪いも!?」
 旭が驚きの声を上げる。


 でも、全ての人間が私達のことを忘れてしまう…。

 お父さんもお母さんも、地元の友達も、圭太や凌輔、智晴も、
 みんなみんな忘れてしまう…。



 だけど、恐怖は感じない。

 なぜなら——



 そっと、手を握られた。
 それに答えるように、私はその手を握り返した。


「僕が解呪の相手になって、沙依ちゃんの呪いを解きます」


 高峰さんが私を見る。
 覚悟は出来ているのですか、と問うかのように。


「はい。旭と一緒なら、たとえ存在を忘れられても怖くありません」


 そう答えると、高峰さんはゆっくりと頷いた。
 そして、手に持っていた巾着袋と地図を手渡した。

「解呪が終わったら、この地図に示してある『茜町』へ行くのです。
 茜町は、祈祷師を支援することで成り立っています。
 巾着に、町に行くための交通費が入っているので、活用してください」

「あ…ありがとうございます!」
 その心行きに、私達は感謝して頭を深く下げた。

 高峰さんは最後に解呪の呪文を教えると、
「…どうか、ご達者で」
 と、私達の手を取って言った。

 私達がもう一度頭を下げると、高峰さんは静かに去っていった。
 その後ろ姿をしばらく見送ってから、旭が言った。

「…始めようか」
「うん」

 手を繋ぎながら、沼に浸かっていく。
 私が痛がらないように、旭はゆっくり、ゆっくり進んでくれた。
 水面が膝あたりまでのところで止まり、私達は向き合った。

「じゃあ、いくよ」
「うん」

 私は目を閉じ両腕を広げ、大きく息を吸って——

 唱えた。



「我、清を司りし神に命ずる——解呪!」



 次の瞬間、私達を中心に渦巻く霊力が生み出された。
 同時に、清らかな波紋が私達の身体を包み、穢れを祓っていく——!

 ——と、その時、

 ふっ、と身体が軽くなった。