コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 君と進む未来なら【凌輔編】 ( No.207 )
日時: 2014/01/25 14:37
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: oq1piOCI)

   【凌輔編 第五話】



 私はその言葉に目を見開いた。
「えっ…!?」
 思わず声をあげると、凌輔のお母さんが厳しい眼差しになった。

「あんたと沙依さんがどんな関係なのかは知らないけど、
 追放者は誰かを道連れにすることは許されてないわ。
 それと、九頭竜倒しも圭太君たちに任せなさい。あんたはすぐに出ていくのよ」

 すると、凌輔はお母さんを睨み返した。
「…そう答えると思ったよ。だから…」

 そう言うと突然私に駆け寄り、私の腕を掴んだ。
「おれは最初からあんたに従わないつもりだったよ!」
 そして、そのまま私を連れて広間から出た。

「待ちなさい!」
 呼び止める声が聞こえたが、凌輔は立ち止まらなかった。



「はあ、はあ…ここまで来れば見つからないだろ」
「う…うん…はぇ…」
 五分ほど走り続け、凌輔はやっと立ち止まった。

 私は呼吸を整えながら、横目で凌輔を見た。


 さっきの言葉はどういう意味だろう。

 …考えなくても分かる。私を連れて逃げたい、ということだ。
 今走ってきたのよりも、もっと遠くへ…。


「…さ、サヨリ」
 不意に名前を呼ばれ、私は肩を大きく跳ねさせながら返事をした。
「は、はいぃ!」
 すると、凌輔は不機嫌そうな顔を赤く染めながら、私に言った。

「その…さっきも言った通り、おれと一緒に来てくれないか?」
「そ、それって、一緒に追放してほしいってことだよね」
「…ああ」

 頷きたいところだけど…私は迷っていた。
 そんな大胆なことをする勇気がないのだ。

 私は顔を伏せながら答える。
「ごめん…少し考えさせて…」

 ——そう答えた直後、手を強く掴まれた。


「ダメだ。考えさせてやる時間なんて与えない」


 その言葉に顔を上げると、凌輔は真っ直ぐ私を見ていた。
 手を掴む力がさらに強くなる。

「で、でも、それをする勇気が私にはないの…」

 正直に告げる。さすがに凌輔も考えさせてくれ——



「お前に勇気がなくても、なんて断ろうとも、おれはお前を連れて行く。

 湖で言ってくれただろ?一人で抱え込まないでよ、って。


 だから——おれはお前が必要だし、お前はおれが必要だ。そうだろ?」



 その言葉に、その想いに——

 私の心は一瞬にして奪われてしまった。


 ——そうだよ。私は言ったじゃないか。思ったじゃないか。
 一人で抱え込まないで、と。


 それは、凌輔に必要とされたい想いで胸がいっぱいになって放った言葉じゃないか。


 私は凌輔を見つめながら頷いた。
「気付かせてくれてありがとう、凌輔。
 私からもお願いさせて。…一緒に逃げよう」

「サヨリ…!」
 凌輔がこれまでにないほど表情を明るくさせた…

 その時だった。


「つまり、駆け落ちってことなのかな?」


 聞き覚えのある声がした。