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Re: 君と進む未来なら【凌輔編】 ( No.223 )
日時: 2014/02/06 21:05
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: cFLcjEJH)

   【凌輔編 第九話】



 思わず凌輔を凝視する。
 すぐ目の前で、私としゃがみ込んでいる凌輔は、真剣な眼差しを向けていた。

 今の言葉は、何?どういうこと?

「どうして…?」
 虚ろな声で呟くと、凌輔は凛とした声で返した。


「一緒に逃げるって約束したけど…考えてみるとやっぱり危険だ。

 さっき九頭竜に力を抜かれたように、サヨリを取り戻そうとする追っ手に
 襲われる可能性がある。

 だから、おれがこの後、お前を二ノ宮家に転送して…」

 パチン、と、胸の中で何かが弾けた。

 言いかけた凌輔の腕を掴み、私は返した。
「——いやだ」

 凌輔は少し目を見開いたが、すぐにもとの表情に戻した。
「でも…」
「いや。絶対に嫌だ」

 また遮り、今度は続けて言った。
 私の胸の内で溢れる想いを。


「だって私、凌輔と離れるなんて嫌…!!そばにいたいよ…!!」


「——!!」
 凌輔が目を見開く。
 こんなにも驚いているのは、私の言葉の意味を悟ったからか、それとも…

 私が感情を高ぶらせて泣いているからか。

 そのまま俯いてしまった凌輔に、私はさらに想いを伝えようと口を開いた。
「だからお願い、一緒に——」

 次の瞬間だった。




「おれだって離れたくない…っ!」



 私は凌輔に抱きしめられていた。

 空間移動する直前よりも、強く。



 凌輔が続けて言う。
「本当はお前を手放したくなんかない、けど…お前を危険な目に遭わせたくない…っ!」


 ——ああ、そういうことだったんだね、凌輔。

 ちょっと強引なところもあるけど、凌輔は優しいね…。


 そう感じながら、私は泣き顔に笑みを浮かばせていた。
 そして、いたずらを仕掛ける子供のように言った。



「それなら大丈夫だよ。だって、凌輔が守ってくれるんでしょ?」



「…!」
 凌輔が身体を離し、大きく見開いた目で私を見た。
 まだ止まらない涙を流しながらも、私は笑顔で見つめ返す。

 やがて、凌輔の表情が和らぎ、弾けるような笑顔を見せた。
「ああ、そうだな。おれがお前を守りながら戦えばいいんだ」
 迷いの吹っ切れた声で言うと、真っ直ぐな瞳で私を見つめた。

「前言撤回だ。おれと一緒に逃げてくれ。…そっ、そして…」

 ツンデレ成分が戻ってきたのか、急に顔を赤くする凌輔。
 やがて決心したかのように顔を上げ、赤くなりながらも告げた。



「——逃げ切った後もずっと、おれのそばにいてくれ。異論は認めないからな」



「…うん。約束ね」


 頷く私を見て、凌輔は子どものようにパアッと顔を輝かせると、再び抱きしめた。
 そして、何気ないふりをして、ぽつりと呟いたのだった。



「…好きだ」