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- Re: 【コメ募集中!】君と進む未来なら【共通編 】 ( No.33 )
- 日時: 2013/11/09 06:18
- 名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: qZbNjnvV)
【第十九話】
静寂に包まれた竹藪の中。かろうじて聞こえるのは、自分が地面を踏みしめる音。
やがてその音も止み、空気が張り詰めたその瞬間——
「はっ!」
指揮棒を振りかざし、空気の刃を生み出す。
それは瞬時に数本の竹を切り刻んだ。
額から頬へ滑り落ちた汗を拭い、私は身体の力を抜いた。
「ふぅ…」
同時に、私のまわりの空気も緩む。
ここは白金町の北部に広がる竹藪の一部だ。
手前の竹藪には時折人がいるが、ここらへんは熊注意報が出ているため人気がない。
そのため、一週間ほど前から、私はここを祈祷の修行所として利用している。
熊はまだ目撃していないが、仮に鉢合わせしたとしてもこの力を使えば追い払うのはたやすいことだ。
私は携帯を取り出し時間を確認した。只今3:56。
「今日はもう帰ろうかなぁ」
指揮棒を竹刀ケースにしまおうとした時だった。
——カサッ
「…っ誰だ!」
不意に聞こえた物音に、ついそう言ってしまった。
すると竹の影から出てきたのは、
「うぇっ!?さ、サヨ、オレだよ!」
なんと、同じく竹刀ケースを肩に掛けた圭太だった。
「なんだ、圭太か…って圭太!?なんでここに!?」
ややパニック状態で尋ねる。
「オレ、普段ここで剣の練習してるんだけど、来てみたらサヨがいたから、少しだけ見てたんだ」
圭太か喋り終わる頃には、もうすっかり落ち着いていた。
「そ、そうなんだ…。圭太もここで技を磨いていたんだね」
「ああ。いい場所だろ?」
うん、と頷くと、圭太はいつものように笑顔を見せたが、直後、その笑顔に少し寂しさを含ませた。
どうしたんだろう…?私が尋ねる前に、圭太が口を開いた。
「サヨはいいよなぁ、強力な能力を持っていて」
その言葉に、はっと気づいた。
そうだ、圭太には通常の祈祷師は誰でも持っている特殊能力がないんだ。
そして、そのことを気にかけているということも——。
圭太は続ける。
「オレの一族は、代々千里眼っていう能力を持って生まれるんだ。俺は長男で純血な祈祷師なんだけど、何故か能力を持ってなかったんだ」
「純血…なのに?」
「ああ。親父は『突然変異だ。気にすることはない』って言ってる。その通りなんだろうけど…」
圭太は手をぐっと握りしめた。
「やっぱり、なんだか悔しいよ」
しばらく続いた沈黙の後、私は圭太を見据えて言った。
「うん、圭太の気持ちはよく分かるよ。…悔しいよね。だけど」
私は圭太の手を取った。
「能力がないと分かっても、圭太はめげずに祈祷している。だから、あんなに凄い運動神経が身に付いたんでしょ。
私や旭たちがそのことを凄いと思っていることは知っているよね。
そう考えると、悔しいって気持ちも和らぐんじゃないかな」
圭太が目を見開く。
「サヨ…」
そして、包んでいた私の手を握り返した。
「さんきゅ、サヨ。おかげで元気出たぜ!」
そして、再び太陽のような笑顔を見せた。
「じゃあオレ、もっともっと頑張っちゃうからな!」
「うん、私も負けないからね!」
私は力強く頷くのだった。
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「じゃあオレ、熊と決闘してくるわ!」と奥の方へ駆け出した圭太と別れて、私は竹藪を出た。
圭太、元気が出たみたいでよかった…。
ほっとしながら歩いていた、その時だった。
「やぁ、また会ったね」
その声に振り向く。
そこには、史人さんが立っていた。