コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【コメ募集中!】君と進む未来なら【共通編 】 ( No.44 )
日時: 2013/11/17 14:14
名前: 瑞咲 ◆7xuwBG6R9k (ID: qZbNjnvV)

   【第二十三話】



 史人さんが、ゆっくりと私から離れる。
 彼は、もう私の知っている史人さんじゃなくなっていた。

 赤く光る目に、蛇の如く尖った牙。そして強烈な霊力——。
 化け物と呼ぶに相応しい姿だ。

「史人さん…何を…?」
 首筋の噛まれた部分は死角になっていて見れないので触れてみる。
 すると、牙の跡がついていて、血が流れているのが分かった。

 史人さんが妖しく微笑む。
「今、君と仮契約をした」
「仮契約、だと…!?」
 智晴が呆然とした声を出した。

「仮と言えども、結べる相手は一人だけ。つまりその一人のみ、生け贄となる権利を得る」
 衝撃を受け、私は言葉を失った。

 史人さんは続ける。
「でも、君の意見を尊重しなくちゃいけないから、君に選択肢を与えるよ。
 彼らと共に俺を祈祷するか、契約通り生け贄となり俺と共に沈むか…。
 どちらに進むかは自由だけど、一方はとても困難であることは分かるよね?」

 私は返事が出来ない。
 その代わりに、凌輔が口を開いた。

「貴様…調子に乗ってんじゃねえよ!!」
 そして、瞬時に槍を召喚し、史人さんにかかった。

 しかし…

 史人さんは表情を変えないまま、霊力の塊を凌輔に放った。
 それは小さいものだったのにも関わらず…
「うわあっ!」
 凌輔を軽々と吹き飛ばした。

「この野郎っ!」
 続いて圭太が光の速さで剣を振りかざす。
 史人さんは、なんとそれを素手で掴み、圭太ごと放り投げた。
「くそっ…」
 圭太は空中で回転して勢いを殺すと、史人さんの背後に着地した。

 素手で刃を掴んだにも関わらず血を流していない史人さんは、苦笑いして言った。
「ははっ、君たちは威勢がいいんだね。でも…これで俺の強さが分かったよね?」

「「くっ…」」
 彼の攻撃を受けた圭太と凌輔が唇を噛む。

 ただ呆然としている旭の隣で、智晴は史人さんを睨みつけて言った。
「お前に沙依は渡さない。俺達がお前を倒す。たとえそれが困難だと分かっていてもな…!」

 史人さんは一瞬笑顔を消したが、再び微笑むと沼の方を向いた。
「じゃあ、俺はこれで失礼するよ。また会いに来るからね、沙依」
 次の瞬間には、彼の姿は綺麗に消えていた…。


 九頭竜の正体は史人さん。

 私は彼の生け贄候補。

 首筋に残る牙の跡、それは仮契約の証。

 そして私に託された選択肢。


 それらが一気にのし掛かり、私は膝から崩れ落ちた。
「沙依ちゃん!」
 すぐさま駆け寄った旭が、私の肩に手を置く。

「…いや…いやだ…何で…?どうして、こんな…こと…に…?」
 その言葉を涙と共に溢すと、私は意識を手放した。