コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【逆ハー万歳!】貴方に愛されたい僕とハナミズキ。 ( No.2 )
- 日時: 2013/07/28 19:16
- 名前: 夕紀 ◆8HAMY6FOAU (ID: ymYDaoPE)
2.
両親の海外出張を聞いたのは、
多分、今年に入った頃の冬だったと思う。
あたしの両親は二人とも同じ会社で、海外相手の仕事をしていたから別に出張などは珍しくない。
ただ、期間が問題だったのだ。
約3年間の長期滞在。
両親は二人ともあたしも海外に連れて行く気だった。
当時、中学三年生だったあたしは一緒に海外に移住することを反対した。
もともと、あたしはこの街の高校に入ることを希望していた。
来たことはなかったけど、隆弘もいるし大好きなおばあさまもいる。
おばあさまとはあたしが小さい頃に一度あったかないかくらいだったけど、毎年お正月やクリスマス。入学式や卒業式に誕生日。お祝い事や行事があれば必ず電話をくれる心優しい人。
▼
「いっちゃん?どーしたの?」
「あ……なんでもないよ」
ボーッとそんなことを考えていたら、隣を歩く隆弘に心配されてしまった。
それにしても、おばあさまがいる部屋というのは洋館の奥にあるようだ。
先ほどから長い長い廊下を歩き続けているような気がする。
あたしのトランクとその他の鞄は隆弘が持ってくれて、全然きつくはないけれど、やはり長い階段を上がってきた足には辛かった……。
「いっちゃん。ここだよ」
「お……おう」
やっとたどり着いた部屋。
青色の扉には、薔薇が彫られていてとても綺麗だ。
コンコン、と隆弘がノックをする。
続いて、部屋の中から何度も電話で聞いた優しげな声が聞こえてきた。
「どうぞ」
「失礼します、おばあちゃん」
「し、失礼します!!」
隆弘に続いて部屋の中に入る。
そこは、沢山の本がある書斎のような部屋だった。
部屋の奥に入ると庭が見える大きいテラスに車椅子に乗った女性の後ろ姿が見えた。
ドキドキと胸の動悸が速くなる。
「おばあちゃん、いっちゃんが来たよ!」
「あ、あの!お……おばあさま……」
トンッと軽く隆弘に肩を押されて、あたしは一歩踏み出した。
「あら……早かったわね」
ゆっくりと、車椅子がこちらに回る。
おばあさまの顔が見えた。
その顔は、隆弘そっくりな太陽のように優しい笑顔。
「顔を合わせるのは10年ぶりくらいかしらね?……樹ちゃん」
「はい……おばあさま」
想像通りの優しげな人。
あたしは心の中で安堵しながらも、緊張を崩せないでいた。
これから3年間もお世話になる人だ。失礼のないようにしないと。
ピンッと背筋を伸ばしておばあさまに向き合うと、クスクスと笑われてしまった。
「あ、あの?」
「ふふふふ……そんなに緊張しなくていいのに。樹ちゃんは礼儀正しいのね……いいのよ?電話の時みたいに話しましょう?私、貴女の顔を見ながら話すのが夢だったのよ?」
あぁ、やっぱりこの人は優しい人だ。
緊張の糸がプツンと切れて、あたしは頬を緩めた。
「はい、わかりました」
「ふふ、やっぱり笑った顔も素敵だわ」
貴女の笑顔には負けますよ、おばあさま。