コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.103 )
- 日時: 2013/08/27 00:17
- 名前: 和泉 (ID: mt9AeZa7)
♯40 「次女と星空と思い出とヒーロー 3」
お風呂からあがってすぐ、私とヒロは眠ってしまって、
目が覚めたときはもう次の日の夕方だった。
一日中寝ていたみたい。
ぼんやりと寝ていたベッドから体を起こすと、
「起きたのね」
ベッドの向こうにいたリカちゃんが、安心したようにこっちをみて笑った。
「歩ける?ちょっとついてきてほしいんだけど」
私とヒロは一も二もなくベッドから飛び降りた。
そんな私たちが連れていかれたのは、二階の一番奥の部屋。
母さん、入るよ。
ドアをノックして中に入ったリカちゃんについて中にはいる。
そこには、ベッドから体を起こした優しい顔の女のひとと、
その隣に男のひとがひとりいた。
「こんにちは、ヒロくん。アヤちゃん。
私は藤沢凉子といいます」
女のひとが笑う。
そしてこう言った。
「今日ね、かなめくんに……、あ、私の旦那さんね。
かなめくんに頼んで、ひまわりの家にいってもらったの」
女のひとの言葉に、私たちは凍りついた。
「ひまわりの家の先生、ふたりを心配していたよ」
かなめさんが笑う。
嘘だ、そんなの嘘だ。
ごちゃごちゃになった頭のなか、それを切り裂くようにかなめさんの声が耳にはいる。
「ふたりに、話があるんだ」
聞き終える前に、私は叫んだ。
「………いやだっっっ!!!!!」
いや、いやだ。
「帰りたくない、帰りたくない!!!!!」
私たちはふたりぼっちだ。
ふたりでいられたら他になんにもいらなかった。
でも、ほんとうはね。
ほんとは、私は、
「ふたりぼっちはもうやだよ!!!」
ほんとうは、みんなと仲良くしたかったんだよ。
ふわり、と優しい香りがした。
見上げると、ベッドから降りた凉子さんが私の頭を撫でていた。
「帰らなくていいよ」
「え……」
「帰らなくてもいいよ」
状況が飲み込めず目を白黒させる私に、凉子さんはこう言った。
「うちの子になりませんか」
やさしい、やさしい一言だった。
「リカちゃんがね、必死で頼んだの。
あなたたちをここにおいてほしい、
わがままをいってるのはわかってる、
だけどあなたたちをどうしても放っておけないんだって」
「リカちゃんが僕たちにわがままを言ったのは、これが初めてなんだよ」
そういって、かなめさんはヒロの隣にしゃがんだ。
「今日僕がひまわりの家に行ったのは、今までの君たちの暮らしを知るため。
そして、君たちが藤沢家にこれるようにするためだよ」
帰そうなんてこれっぽっちも思ってない。
そういって、彼は私たちに問うた。
「僕たちと一緒に、暮らしませんか」
こらえきれずに涙が溢れた。
隣でヒロも泣いてるみたいだった。
「もう、いたくない?」
「痛くないよ。僕が守るよ」
かなめさんが笑う。
「ふたりぼっちじゃない?」
「あたしがいつまででも遊んであげる。
だからもう、ふたりぼっちじゃないよ」
リカちゃんも優しく微笑んだ。
それを見て、ヒロがそっと最後の質問を言葉にする。
「ただいまって、言ってもいいの……?」
その問いかけに、凉子さんはそっと私とヒロを抱きよせた。
「おかえりなさい」
限界だった。
私とヒロは、凉子さんに抱きついたまま泣きじゃくった。
そしてその日、私とヒロは双子になり、藤沢家に仲間入りをしたのだ。
そのあと、凉子さんは風邪をこじらせて入院してしまった。
私たちのせいかときくと、違うよと首を振られた。
あれからもう、二年がたつ。
今はもう、私はふたりぼっちじゃない。
いろんなものをリカ姉やナツ兄、お母さんやお父さんにもらった。
そして、今。
「あなたの名前はなんていうの」
私は知らない女のひとと車に乗っている。
川原で遊んでいたら、無理やり抱き上げられて車に入れられた。
このひと、怖い。
口は笑ってるのに目は笑ってない。
「………アヤ」
そっとつぶやいた。
女のひとは満足気に私を抱き寄せる。
そして彼女はこう言った。
「そう、アヤ。
私はあなたのお母さんよ」
あなたを、取り戻しに来たのよ。
触れた手はひどく冷たくて、私はあの日星空の下で出会ったヒーローを思った。
助けにきてよ、リカ姉!!