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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.104 )
日時: 2013/08/28 18:29
名前: 和泉 (ID: qrMs7cjz)  


♯41 「長男は黙ってドアを閉める」

アヤがさらわれる三時間ほど前。

時間帯にしてアヤとヒロがふたりででかけたあと。

ピンポンピンポンピンポンピンポンピ———ンポ———ン!!!!!!!!

けたたましく藤沢家のチャイムが鳴った。

俺、ナツは一体なんだと顔をしかめながらドアを開けて

「…………」

閉めた。
それはもう全力で閉めた。
ドアが軋むくらいの勢いで閉めた。

しかし。

ドアを閉める直前、ガシッ、と隙間に革靴が突っ込まれる。
ぐぐっとドアを閉める手に力を込めるが、意味がない。

「やーだ、ナツ君。友達が来たってのに、いきなりドア閉、め、ん、な、よ?」

ドアの向こうにいたやつが、にやりと笑う。
俺はそいつに叫び返した。

「閉めるわてめえ!!!!
心のドアも一緒に閉めてやる!!」

「おじゃましますね」

「おじゃますんな!!
何ドアの隙間から滑り込んでんだ佐々木!!
体ほっそいなおい!!」

「誉めてくれてありがとう」

「誉めてねぇぇぇえ!!!!!」
そう。
ドアの向こうにいたのは、親友金井浩二と佐々木杏奈である。
別名を俺の平穏クラッシャー。

「大丈夫、大丈夫。
ありがたく俺らの夏休みの宿題を手伝うが良い」

「手伝わねぇよ!!自力でやれ自力でっっ!!」

浩二が差し出した参考書をべしっと払い落とす。

「でも、学年2位のナツ君はもう夏休みの宿題なんて終わっているでしょう?」

「終わらせたよ、自力でな」

「仕方ない、数学の答え写させてもらうだけで手を打とう」

「私は英語で手を打ちます」

「仕方なくもなければ打つ手もねぇよ!!」


叫びながらも、こいつらを家に入れてやる俺は甘い。
ため息をつきながら掃除したばかりのリビングに通すと。

「あれ、アヤちゃんは?」

部屋に入った浩二が俺に尋ねた。

「アヤとヒロは、今リカの中学に忘れもん届けに行った。
さっきリカから無事ついたって連絡あった。
五時くらいに帰るってさ」

「双子ちゃんのはじめてのおつかいですね。
リカちゃんの中学って、東中ですか?」

「そうそ。東中」

「ここからだと川原沿いの道通って学校通ってんじゃね?」

「よくわかるな」


まあね、と浩二はひとりごちて、リビングの机に参考書を広げた。
佐々木も同様に広げる。

「さあ、ナツよ。教えるが良い」

「教えてくださいぐらい言いやがれ」

「仕方ないですね。教わってあげるとしましょう」

「教えてやんねーぞてめえ」

顔をしかめながら、二人に向き直ったとき。

「あ、ごめん。電話きてた」

浩二が黒いケータイを目にしてパッと立ち上がった。
「ちょっとかけ直してくるわ」

そういって浩二が部屋を出る。
それを見送って、俺は佐々木に向き直った。

「さあさあ楽しい英語のお時間でーす」

「楽しくありませーん」

軽口をたたきながら、俺たちは参考書に向き直った。

それからしばらくして、浩二も部屋に戻ってきた。

三人で参考書に向き合い黙々と問題を解く。

気づけば時計の針は午後五時をさしていて、
そろそろリカたちが帰ってくるかなと思ったときだった。


「ナツ兄っっっっ!!!!!!」


勢いよく、玄関の扉が開く音がした。
リカの叫び声もほぼ同時に耳にはいる。
うわぁぁぁあん、とヒロの泣きじゃくる声。

何があったのかとあわてて玄関に出ると、
顔を真っ青にしたリカと、それに付き添う日下部くん。
そして泣きじゃくるヒロが、そこに立っていた。

「ナツ兄、ナツ兄、ごめん。どうしよう。どうしようあたしっっ!!!!!」

「落ち着けリカ。どうした?アヤは?」

姿の見えないアヤが気にかかり、安否をとう。
すると、アヤがひっと短く息を飲んだ。

そして、口にした言葉は。

「さ、らわれた。
アヤと同じ顔の女が、アヤを車にのせて連れていった!!」




嘘、だろ。