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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.105 )
日時: 2013/08/28 19:48
名前: 和泉 (ID: Kwou2MmU)  


♯42 「長男と藤沢家の次女救出大作戦」


「よくわかんない。ちゃんと事情を説明して、リカちゃん」

真っ白になってフリーズした俺を動かしたのは、後ろに立っていた浩二だった。

真っ青になったリカは、うまく頭が回らないらしい。

リカに変わって事情を話してくれたのは唯一冷静だった日下部くんだった。


川原で少し目を話した隙に———。
黒いベンツが———。
アヤと同じ顔の女がアヤを車に———。

ぐるぐると巡った言葉は、凍りついた俺をとかしていった。

あたしのものよ、返してもらうわ。

女が残したという言葉に頭に血が上る。

アヤは誰のもんでもねぇよ!!

ぐっと拳を握りしめた俺のうしろで、冷静に言葉を紡いだのは佐々木だった。

「リカちゃん、確かにその女はアヤと同じ顔だったんですね」

いまだに青白いリカの顔をのぞきこんで確かめる。

「はい」

「で、あたしのものよ、返してもらうわ。
そう叫んだんですね」

リカがうなずく。

ひっかかりますね、とうつむいた佐々木の横で、浩二がパッと顔をあげた。

おそらく、その女は。

浩二はそっと推測を言葉にのせる。

「その女は、アヤちゃんをひまわりの家に捨てた実の母親である可能性が高い。」

「………っ」

リカが息を飲む。
娘を捨てた母親が。
今さら誘拐までして何を。

言葉にならない悲鳴が聞こえてきそうだ。

そして、さっと佐々木の方を確認した。
そういえば、佐々木には俺、藤沢家の秘密を話していない。

俺たちは、血が繋がっていないんだって。

だけど佐々木はちょっと困ったように微笑んだ。

「イチコーの女子の間では結構有名な話です。
すいませんが、知ってますよ」

知っていたのか。
おそらく発信源は祭りの時のあの女子生徒たちだろう。
安心すればいいのか落ち込めばいいのかわからない。

複雑な顔をする俺とリカをよそに、浩二は話を続けた。

「たぶん、あたしのものよって言った分には、アヤちゃんが女に傷つけられたり
命を奪われたりは簡単にはされない、と思う。

傷つける気なら、顔を見たリカちゃんも一緒に連れ去るのが自然だ。
そうしなかったなら、アヤちゃんが傷つけられることはそうそうないんじゃないかな。

それに、車は女が運転していた訳じゃなかったんだろ。
だれかが女に協力しているんだ。
かなりの金持ちと見た方がいいんじゃないか」


リカの顔は青ざめたままだ。

「警察に」

リカが慌てたようにつぶやく。
けれど、浩二はゆるく首を振った。

「相手がアヤちゃんの母親なら、アヤちゃんをさらったのには何か理由があるはずだ。
こっちになにかアクションを起こしてくるかもしれない。

警察に連絡をする前に、俺たちで調べられることは調べてみよう」


こくり、とリカがうなずいた。
少し、目に力が戻っている。
そんなリカに目をやってから、佐々木はこちらを見つめた。

「藤沢くん、アヤちゃんはどういう経緯で藤沢家にひきとられてきましたか?」

「え」

「大事なことです、答えてください」

問い詰めるような声に押されて、俺は口を開いた。

「ひまわりの家っていう、孤児院からひきとられてきたけど」

そう返すと、佐々木はひとつうなずいてこう言った。

「じゃあ、ひまわりの家に連絡してください」

「は!?」

「女がアヤちゃんの今の居場所を知る手段なんて限られています。
一番確実なのは自分が娘を捨てたひまわりの家に行って、母親だってなのることでしょう。

とりあえず可能性の高いとこから攻めましょう」

うまくいけば母親の連絡先くらい掴めるかもしれません。

そう繋げた佐々木の声を最後まで聞かずに、俺はリビングに走った。
電話帳で、隣町にあるひまわりの家の住所と電話番号を探す。

「ナツ兄、あたしお母さんとお父さんに知らせてくる」

リカがそう叫んだ。
それにうなずいて返す。
日下部くんもそれに続いた。

「ナツさん、俺はあのベンツに見覚えある人がいないか探してきます。」

「頼んだ」

「じゃあ私と金井くんは、犯人からの電話を待ちます。
気兼ねせずにひまわりの家にいってください」

「ありがとう」


アヤ、今助けにいくからな。

小さく呟いた声は形にならずに消えた。