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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.107 )
日時: 2013/08/30 22:12
名前: 和泉 (ID: zPUpNUPC)  


♯43 「長男と藤沢家の次女救出大作戦 2」


父さんには案外あっさりと連絡がついた。
いつものヘタレはどこへやら、ひたすらに低い声で「今すぐ帰る」と連絡があった。
母さんは母さんで、ふらつく体を無理やり起こしてまで
自分もひまわりの家に行こうとし、リカになだめられていた。

俺はというと母さんと浩二、佐々木を留守番にし、
リカと共に現在ひまわりの家の前に立っている。

ひまわりの家に一度電話はかけたものの留守電だった。
それなら隣町なんだしちょっといってくるわ、ということで今に至る。

父さんが帰宅するのを待っていられるほど残念ながら俺たちは悠長じゃない。


自転車で30分ほど。
そこに、ひまわりの家はあった。
グラウンドのある、白い建物がひとつ立っている。

ここが、アヤとヒロが三歳までを過ごした場所。
そう思うと、少しだけ緊張してしまった。

俺はリカにうなずいて白い建物のチャイムを鳴らす。

「はい」

しばらくして若い女性の声がこたえた。
その声に跳ねるように返事をする。

「こ、こんばんは。夜分に失礼します。
俺、藤沢夏と言います。
二年前ここにいた「アヤ」という名前の女の子について話があるのですが。」

緊張しながらつっかえつっかえ話す。

すると、アヤ、の名前を出したとたんにブツッと通信が切れた。
無視する気か、こいつ。

顔をしかめたリカがもう一度チャイムを鳴らそうと指を伸ばしたとき。

がちゃり、と目の前のドアが開いた。
年は30半ばだろうか。
ひとりの女性がドアを開け、どうぞ、と俺たちを招き入れた。


中に入り、廊下を歩くと近くの部屋から小さな子供たちの笑い声がした。

少し歩いて、廊下の突き当たりの部屋にはいる。
椅子をすすめられたので、黙って着席した。

「綺ちゃんについて聞きたい、との話ですが」

女性が話を切り出す。
それにうなずいたのはリカだった。

「私たちは二年前、藤沢家にヒロくんとアヤちゃんを引き取りました。
最近、そのことをここに聞きに来た方はいませんでしたか?」

「……ええ、ひとり」

女性が首をかしげながらそう答える。

「綺ちゃんの実の母親だと名乗る方が、ひとりいらっしゃいました」

——————ビンゴ。

リカと視線をあわせて、うなずきあう。

「立花紫乃さん、という方で一目綺ちゃんを見たい、と。
もう引き取られたと伝えると、遠目から見るだけで構わないから、
綺ちゃんの今の居場所を教えてくれないかと。」

立花紫乃。
頭の中でその名前を繰り返す。

「それで、教えたんですか」

リカの問いに女性がうなずく。

俺とリカの気持ちを一言で表すなら、やってくれやがったなこの女、である。

「なにかあったんですか」

おおいにありましたとも。
守秘義務ってもんを知らないのかこいつ。

呆れた目で女性を眺めていると、リカがぽつりと尋ねた。

「その女の人は、他になにか言っていませんでしたか」

「他に?」

女性が訝しげにリカに問い返す。
それにリカはゆっくりと広角をあげた。

「例えば、アヤを捨てた理由、とか」

女性が凍りつく。

「言っていたんですね。聞かせていただけますか」

「ですが、簡単に話していいような内容じゃ」

「大事なことなんです」

リカが畳み掛けた。

「大事な妹のことなんです。教えてください」

ため息をついた女性が、アヤの母親について語り出したのはそのすぐあとのことだった。