コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.109 )
- 日時: 2013/08/30 22:19
- 名前: 和泉 (ID: mt9AeZa7)
♯45 「次女とほんとのお母さんの話」
私、アヤが連れていかれたのは、大きなマンションのなかのお部屋だった。
香水の香りがする部屋の中に、女の人に抱き抱えられてはいる。
すると、
「話が違うじゃないか!?」
中にいた男の人が驚いたような顔で叫んだ。
「あたしの娘よ」
女の人は私を抱き締めたまま返す。
「でも戸籍上はこの子は藤沢家の子どもだろう!!
だいたい、見るだけだと言ったから協力したんだ。
誘拐なんて冗談じゃない!!」
「あたしが、あたしの娘を連れてきて何が悪いの。
あたしは、この子を愛しているわ」
愛しているのに、すてたの?
よくわからないことを言うなぁ、
そう思いながら私は女の人と男の人が言い争うのを見ていた。
車の中で、一人言のように女の人が語った言葉を思い出す。
女の人。
名前は、立花紫乃さんというらしい。
立花紫乃さんには愛していた男性がいた。
私はその男性との間に生まれた子どもなのだという。
問題は、その男性がかなりのお金持ちだったこと。
そして、その男性にはすでに家族がいたということだ。
私が生まれたことで彼の家族に浮気がばれ、
男性に別れを告げられることを恐れた立花紫乃さんは、ひまわりの家に私を捨てた。
しかし、私を捨ててから男性との関係は少しずつ悪化し、
この間別れを告げられた。
そして別れを切り出された立花紫乃さんは、男性に条件を出した。
「あなたとの娘にもう一度会いたい。
あなたと私の娘がどこにいて、どんな生活をしているのか知りたい。
それを知るために協力してくれ」
そうすれば別れてやる、と。
男性は立花紫乃さんの条件を飲んだ。
男性の協力のもと立花紫乃さんは私の居場所を探し出した。
そして男性ではないある人の協力により、川原で遊ぶ私に接近することができた。
「どうして、私をつれていこうとするの?」
そう聞くと、
「寂しくなっちゃったのかもね。
幸せそうにわらってるあなたを見て、あなたを取り返したくなっちゃったの」
そう笑って返された。
立花紫乃さんが語った話の半分以上は、私にはわからなかった。
ただひとつ。
この人はひどく自分勝手な理由で私を捨て、
また自分勝手に私を家族から引き剥がそうとしてるんだってことはわかった。
ぼんやりと、男の人と女の人が言い争うのを眺めていた。
部屋のすみっこに座り込んだまま、もう長い時間も過ぎた。
一時間、二時間、それもよくわからなくなってきた。
すると、突然。
「アヤちゃん、あたしのところへ帰っておいで」
そう言って、立花紫乃さんが私の肩をつかんだ。
それにひっと息を飲む。
「やめろ、紫乃!!」
「だってあなたはあたしの娘じゃない。
あたしがお腹を痛めて生んだ娘じゃない。
血の繋がってない親元にいるより、あたしのとこにいる方が幸せに決まってる!!」
「紫乃!!」
怖い、怖い。
このひとが、怖い。
肩をつかむ手に力が入る。
いたい、いたいよ。
「ほら、言ってごらん。
あたしをお母さんだって」
いいたくない。
だって、私のお母さんは。
『おかえりなさい』
そう言って笑ってくれた、あの人だけだから。
「…………だ」
「え?」
「いやだ!!」
思いきり叫ぶ。
助けて、助けてよ。
ヒロ、ナツ兄、リカ姉、お父さん、お母さん。
女の人の顔色が変わる。
ぎゅっと、固く目を閉じた。
その瞬間。
ピ————ンポ————ン!!!!
間の抜けたチャイム音がなった。
それと同時にドアが開く音も。
なんだなんだ、よくわからずに目を白黒させる男の人と立花紫乃さん。
でもね、私は知ってる。
とん、とん、とん。
ぎっ、ぎっ、ぎっ。
軽い足音となにかを押す音。
聞きなれた、音。
そして。
「ヒーロー参上!!」
やっぱり、現れたのは私のヒーローだった。
「リカ姉!!お母さん!!」
リカ姉に車イスを押されて、お母さんが部屋に入ってきた。
「忘れてもらったらこまるなぁ」
そう言いながら、ヒロを抱いたお父さん、それにナツ兄も顔を出す。
車イスに乗ったお母さんは、いつもの数倍優しい笑顔で微笑んだ。
「私の大事な大事な娘、返してもらうわね」