コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.118 )
- 日時: 2013/09/06 22:17
- 名前: 和泉 (ID: ZsfIQqc0)
♯50 「次女とデートと写真展 2」
「藤沢さん」
「………」
「藤沢さーん」
「……」
「藤沢さん?」
「なによ」
何度も日下部に名前を呼ばれたあたしは、
キっと斜め後ろを歩いている日下部を睨み付けた。
ほっとけ日下部。
あたしは今恥ずかしすぎて機嫌が悪いのだ。
「さっさと言いなさいよ」
日下部を睨み付けるあたし。
そんなあたしに、日下部は困ったように一言。
「写真展やってるアートギャラリー、
さっきの交差点の角を曲がんなきゃ着かないよ?」
…………。
「もっと早く言ってよバカ!!」
恥の上塗りじゃないかこのやろう!!
ああ、もう泣きそうだ。
慌てて引き返そうとしたあたしに、ちょっと待って、と
日下部がもう一度ストップをかけた。
「今度は何!?」
これ以上恥をかくのはごめんだ。
噛みつくように返事をすると、
「手首、握りっぱなし」
日下部が左手を軽くゆらした。
その手首を握るのはあたしの右手で。
「わぁぁぁぁぁぁあっっ!!」
あたしは叫んで日下部の手を振り払った。
今なら恥ずかしすぎて死ねる。
泣いてやろうかもういっそ。
そんな頭を抱えるあたしに、日下部は困ったように尋ねた。
「もしかしなくても藤沢さん、緊張してる?」
あたしは小さく頷く。
緊張くらいしますよ。
だって。
「男の子とふたりで出掛けるのなんて初めてだもの」
しかも今日の今日まであたしはナツ兄とアヤとヒロに、
『デート!!デート!!』
『アヤ、ヒロ、日下部とリカを生暖かく見守るぞー』
『おー!!』
と、それはもうネタにされ続けたのだ。
意識しない方がおかしい。
その辺りの事情を切々と日下部に話すと、日下部はふわりと笑った。
「はは、やっぱナツさんたち、藤沢さんのこと大好きなんだね」
「……?」
どういう意味だ、そう思って首をかしげると
「だってそれ、藤沢さんが家のことを気にしないで1日遊べるようにっていう
ナツさんたちの気づかいのように俺には思えるけど」
……………あ。
「遠回しに家のことは気にせず遊んでこいって意味じゃない?
それにね」
そう続けて、きゅっと日下部があたしの手を握った。
その手は小さく震えていて。
「緊張してるのは俺もだよ。
お互い様、だね」
そういって、日下部は優しく微笑んで見せた。
その笑顔にまた胸の奥が締め付けられたように痛くなったのは、何故だったんだろう。
日下部があたしの手を繋いだまま歩き出す。
あたしはもう、その手を振り払いはしなかった。