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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.122 )
日時: 2013/09/28 18:28
名前: 和泉 (ID: AzAx2/ma)  


♯53「長男と不本意な人気者」

「わあ、藤沢くんすごい!!」

「このクッキーおいしいしかわいい!!
オレンジ色してる!」

「それは人参をミキサーにかけたのを生地に混ぜただけ。
子供でも好き嫌いせずに野菜食べれるように考えたやつ。
キャロットクッキーの他にも、カボチャクッキーもあるぞ」

「え、カボチャ!?」

「最初にカボチャゆがいて……」

カボチャクッキーの作り方を説明しようと口を開いたところで、
俺、藤沢ナツははたと気がついた。

何故俺は当然のように、家庭科室で女子に囲まれてクッキーを焼いてるんだろう。

「藤沢くん?」

そう、ここに至った理由は一時間前に遡る。




一之宮高校、通称イチコーの文化祭は10月の頭に行われる。

俺たちのクラスの出し物は模擬店。内容はクッキーやパウンドケーキなどをメインにしたカフェ。

そして、今日はメインのお菓子を調理室でクラスの女子が試作をする日だった。
俺が料理を作るのが得意なことを知っている浩二は、お前も行って参加してこいよと目線を送ってきたが無視。

夏祭りに絡んできた女子のお陰で、女子の集団は俺にとって若干トラウマになっていた。

他の男子は参加しないのだ。
俺一人、女子の集団に囲まれる状況は遠慮したい。
女子怖い。

そんなこんなで俺はクラスに残された男子と共に教室の装飾担当。
夕飯はリカに任せてきたので、今日は放課後も残れる。
日が傾きかける中、黙々と看板を作るべくベニヤ板に釘を打ち付けていた時だった。

「せいがでますねー、ナーツー君!」

「お前の顔面にも釘打ち込むぞ」

ひょっこり俺の横から浩二が顔を出した。
俺はその顔に金ヅチを振り上げて打ち込む振りをする。
そんな俺を見て、浩二は楽しそうににっと笑った。

「なんだか思考回路がリカちゃんに似てきたね、ナツ」

「おかげさまでどーも」

喜べばいいのか落ち込めばいいのかよくわからん誉め言葉をどーも。


そんな俺を見て、浩二がお願いがあるんだけど、と話を切り出した。
なんだと聞き返すと浩二が指差したのは窓の向こうに見える東校舎2階の調理室。

「調理室がどうかしたのか?」

「いや、今ちょっと男子数人と調理室に顔出して、
試作のクッキーやらパウンドケーキやら食べさせてもらったんだけどさ」

「…………おう」

なんだか嫌な予感がするぞ。

「これがまた微妙な味でして」

微妙なってなんだ微妙なって。
顔をしかめた俺に、浩二が身ぶり手振りで説明し出した。

「なんていうか、こう、もっさりかつじっとりぎとぎと?
バターの味がよく利いてる通り越してバターの味しかしないっていうか、
一個食べたら二キロ太りそうっていうか」

「クッキーの種類は?
バタークッキーだったからバターの味がしたんじゃないのか?」

さすがに高2女子が集合してそんなに悲惨な結果にはならないだろう。
そう思い首をかしげると。

「それが恐ろしいことに俺が食ったの抹茶クッキーなんだよね。
残念ながら抹茶の味なんてしなかったわ」

何やってんだ女子!!

「女子もなんでこうなったかなぁ、って落ち込むし、ぶっちゃけあんなクッキーやらケーキやらだしたら客一瞬で消え失せるだろうし」

そして、浩二は俺を振り向くとにっと笑って人差し指をたてた。

「そこで俺は調理室で落ち込む女子に提案したわけです。
学校1女子力が高い、心強い味方をつれてきてやるから待っていろ、と」

まさか。

さっと顔から血の気が引く。
もうこいつが何を言いたいのか理解できた。

後ずさる俺の手を握り、その場に片足をついた浩二が俺を見上げて笑う。

「我がクラスの売り上げのためにお菓子を作っていただけませんか。
学校1女子力が高い、心強い味方の藤沢夏くん?」

————嫌な予感、的中。


「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっっっ!!!!!」


……その後。
女子力なんてない嫌だ嫌だと首を振り続けたものの、
男子三人係で羽交い締めにされ調理室に連行された。

「俺たちの文化祭はお前にかかってる!」

「頑張れ藤沢!!」

「戦え女子力!!」

「てめーら無責任にもほどがあるだろ!!」

「だいたい女子に囲まれるのが嫌だとか贅沢なんだよ!」

「そうだそうだ!!」

「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」

叫びながら廊下を引きずられていく俺の目にはしっかりと、「逝ってこい☆」と手を振る浩二が映っていた。
浩二、お前いつかやり返すからな!!


そして、調理室に連行された俺は女子に囲まれ半分魂の抜けた状態でお菓子を作り、今に至る。