コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.129 )
日時: 2013/11/03 08:28
名前: 和泉 (ID: fYloRGSl)  


♯56 「長男と長女の文化祭の朝」

リカと俺の通っていた中学校は保護者に対して非常に善意的だと思う。
何故なら、文化祭を休日にやってくれるから。
おかげで俺も父さんも仕事や学校を休まずにリカの舞台を見に行くことができる。
アヤもヒロも見に行くことができる、と喜んでいる。
ただし。

「来なくていいわよあんなの。
ただの黒歴史になるだけだから。」

当の本人、リカお姉さまを除いて。

リカの中学校の文化祭当日。
思いっきり顔を歪ませたリカは、カフェオレを一気飲みしながらひらひらと手を振った。
おい双子、牛乳で真似しようとすんなむせるのがオチだから!!

双子の頭をスパーンと叩いて、非常に危ない真似をやめさせる。
双子からは恨みがましい目を向けられたが、知ったこっちゃない。
俺は不機嫌そうに朝食のフレンチトーストにかじりつくリカに話を振った。

「まあそう言うなよ。確か内容は赤ずきんのパロディだったよな?
いったいどんな話だ?」

「腹黒い赤ずきんがストーカー気質の狼をしばく話。」

いったいどんな赤ずきんなんだそれ。

「ちなみに、リカは何役だったっけ?」

父さんが苦笑いで尋ねたが、

「腹黒赤ずきん。ストーカー気質の狼は日下部よ」

配役がはまりすぎていて何も言えなかった。
リカの赤ずきん、見たいような見たくないような……。

俺も苦笑いで、自作のフレンチトーストを口にする。今日のは良い焼き加減だ、おいしい。
一人で満足してうなずいていると、

「母さんは、やっぱり来れないのね」

かすれた声でリカが呟いた。

「……ああ」

「目は覚めたんでしょう。体調があまりよくないから、面会謝絶になってるって聞いたけど」

「そうだな」

「本当に、会いに行くのもだめなの?」

俺は黙って首を振った。

いつものリカなら、双子の前で母さんの話をしたりなんかしない。
幼い二人の前で病気の母親の話をすることが、彼らの不安に繋がることをよく理解しているからだ。

それでも今日はこらえきれなかったんだろう。

去年までリカの文化祭は家族みんなで見に行っていたから。
母さんも一緒に。

いくら口では見に来るな、と言ったって、家族が応援しに来てくれることが嬉しくないわけないのだ。

中学生最後の文化祭に母さんの姿がないことを、リカはリカなりにさみしがっている。
いくらリカが大人びていたって、まだ14歳の子供なんだと思い知らされるみたいだった。

「大丈夫、すぐに会えるよ」

そう言って俺は微笑んだ。
けれど、俺は知っている。
俺と父さんだけは知っている。



母さんには当分会えそうにないことを。