コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.132 )
- 日時: 2013/11/04 11:58
- 名前: 和泉 (ID: x6z9HA8r)
♯58 「長男と客席の高校生」
「リカ姉が主役?」
「おう、そうだぞー」
「ビデオの用意はできてる、ナツ君」
「ばっちりっす隊長」
隣で父さんがそわそわしている。
なんてったって、娘の晴れ舞台だ。
めんどくさがりのリカが舞台に立つなんて、しかも主役だなんて、
これから先一生に一度あるかないかの大イベントだ。俺も少なからず浮き足立っている。
ただ、ひとつ突っ込みたい。
「へえ、リカちゃん赤ずきんなんだ。
まあ稀に見る美少女だしなー」
「ですよね。
今まで芸能事務所とか勧誘されたことなかったんですか?お父さん」
「あるよ、街を歩く度声かけられてるよ。
でもリカ、寄らば斬るみたいなオーラ出してるからなぁ。
一睨みでスカウトマンが逃げちゃうの」
「あ、それわかるっす。
リカちゃん美人だけど、目付きがどうにもね」
「待てお前ら」
俺は父さんの隣でうんうんと頷いている、佐々木と浩二を睨み付けた。
あまりに自然に馴染みすぎていて突っ込みが遅れたが、おかしいだろ。
なんで俺の妹の文化祭を、二人が見に来ているんだ!!
「百歩譲ってこの中学の卒業生の浩二はよしとしよう、なんで佐々木がいる」
「暇だったからですね」
「そーそー、佐々木さんから暇だってメールが来たから、俺がナツ誘って遊びにいこうとしたんでしょ。
そしたらリカちゃんの舞台だなんて面白いこというから、見なきゃ損かなって」
今朝、確かに俺の元に浩二から遊びにいかないかとメールが来た。
リカの文化祭の舞台を見に行くから、と断ったのは俺だ。
まさかこう来るとは思わなかった。
何故用事があるとかうまいこと言えなかったんだ、俺……!!
けど、そこではたと疑問を持つ。
「お前らさ、最近仲いいよな。
気づいたら二人でいるし」
「まあな」
「付き合ってんの、佐々木と浩二」
時間が止まった。
父さんは何も聞いてないふりをしようとしているが、耳をそばだてているのがまるわかりだし、
双子に至っては目をキラキラさせて「カレカノ?カレカノ?」とひそひそ話。
カレカノなんて単語教えたのだれだ。
しかし、フリーズすること5秒。
二人は同時に、
『はっ、ないわー』
鼻で笑い飛ばした。
「こんな腹黒女、死んでもお断り。
俺の趣味は優しくて可愛くて裏表ない子だから」
「そんなの私の台詞です。こんな腹黒詐欺師は全力でご退場願いたいですね。
ただ利害関係が一致したので仕方なく一緒にいるだけです」
二人は思いっきり顔をしかめて言い放つ。
しかし違和感をぬぐいきれない俺は首をかしげた。
「でも二人、息ぴったりだし。
なんだかんだ言って、一緒にいるとき楽しそうだし。
なかなかにいいカップルかと思って応援してたんだけどな」
二人がまた同時に固まった。
俺が何か変なことを言ったかと首をかしげると、隣で父さんがこらえきれずに吹き出した。
「どしたの父さん」
「いや?若いっていいなぁって思って」
くすくす笑う父さんの隣で、天然怖い天然怖いと佐々木と浩二は呟き、
双子はカレカノカレカノ?とにやにやしていた。
何このカオスな空間。
俺が呆れ顔で脱力したところで、リカのクラスの劇が始まるとアナウンスが流れた。
この空間はもう放置に限る。
俺はリカの舞台をビデオに収めると言う使命があるのだ。
ビデオを構えた俺の前で、幕が静かに上がった。