コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.133 )
- 日時: 2013/11/04 14:08
- 名前: 和泉 (ID: fOW/FHMu)
♯59「赤ずきんとラブコメディ(笑)」
さて、そんなこんなで舞台が始まった。
「むかーし、むかし。
あるところに、赤ずきんという少女がいました。」
舞台袖に出たナレーターがそう言うと、ぱっと舞台が明るくなる。
舞台の真ん中に、赤ずきんの母親役だと思われる女生徒と、リカが立っているのが見えた。
「赤ずきん、悪いけどおばあちゃんのところにこのパンを届けてくれないかい?」
「クロネコヤマトに宅配頼んだ方が早いと思うんだけど」
「このあたりは狼がでるらしいから気を付けてね」
「狼が出る場所にわざわざ娘行かしてどうするの。
遠回しに死ねって言ってますか」
「それじゃあいってらっしゃい」
「……あたしの話聞く気ないよね」
「こうして赤ずきんは話の進行上仕方なく、おばあさんの家に行くことになったのでした」
…………なんてシュールな赤ずきんなんだ。
こんな脚本書いたの誰だ、いったい。
俺はぽかんと口をあけ、浩二と佐々木はすでに肩を震わせている。
確かに、この赤ずきんにリカははまり役だ。
俺が呆けている間にも、舞台は進んでいく。
「道中で綺麗な花畑がありましたが、この赤ずきん見向きもしません。
綺麗な小川もありましたが完全にスルーしました。
おかげで赤ずきんに声をかけるつもりだった狼は後をつけ回すだけになり、
完全に声をかける機会を失っております!!」
赤ずきん冷めすぎだろ。
そしてナレーター、なんでそんな実況中継みたいなナレーションなんだ。
「しかししびれを切らした狼が、とうとう赤ずきんの前に姿を現しました」
そこでさっきからようやく狼が、舞台の真ん中に登場した。
やたらとリアルな狼マスクを被った男子生徒が。
まさか、あれ。
「日下部、お前、哀れな……」
ついつい心の声が漏れた。
お前一応イケメンなのに。
ウケ狙い係にされてるじゃねーか。
「あなたがずっと好きでした!
俺と付き合ってください!!」
赤ずきんを食べるつもりは毛頭ない狼。
狼は赤ずきんにずっと片想いをしていたけれど、
なかなか告白する機会も友達になるきっかけもなかったのだとナレーターが切々と語る。
これ、まんまリカと日下部の関係なんじゃ……。
そして、赤ずきんの返答は。
「…………はっ」
鼻で笑って終了だった。
日下部がなんだかあまりに哀れだ。
しゃがみこんだ背中がなんとも言えない哀愁を漂わせている。
明らかに演技だけではない落ち込みようだ。
客席から狼頑張れー!!と声援がとぶ。
俺でも声援飛ばしたくなるよ、これ……。
そんなあまりにむちゃくちゃな始まり方の劇だったため、
きちんとストーリーが成立するのか不安だったけれど、その後舞台はきちんと軌道修正を始めた。
森の狩人と呼ばれる強盗団が、おばあさんを撃ち殺して美しい赤ずきんを誘拐し、人売りに売ろうと企む。それをたまたま知ってしまった狼は、赤ずきんを救うため急いでおばあさんの家に向かう。
そこで間一髪、おばあさんが撃たれる直前に間に合い、体当たりで銃を奪うが自分が撃たれてしまう。
手に汗握る展開。
俺も途中から完全に話にのめりこんでいた。
「赤ずきん、逃げろ!!
奴等の目的は君だ!!」
日下部の迫真の演技。
しかしなんだか笑えてしまうのは狼マスクのせいだそうに違いない。
さて、一方で赤ずきんは一切動じない。
動じず、ただじいっと強盗団を見つめている。
そして一言。
「なめんじゃないわよ」
赤ずきん、ことリカが思いっきり襲いかかってきた強盗犯Aを投げ飛ばした。
………えぇぇぇぇぇぇえ!?
その後も赤ずきんは回し蹴りからのアッパー、飛び蹴り膝蹴りそして上手投げを繰り出し、
強盗団を鮮やかにのしてしまった。
まるで何かのアクションスターのようだ。
客席から惜しみ無い拍手が贈られる。
しかし俺たちの目は死んでいた。
「なあ、ナツ」
「なんだ、浩二」
「昔俺さ、武道習ってたじゃん。
自慢気に技をいくつかナツに伝授した覚えがあるんだけど」
「俺もさ、浩二に教えてもらった技をリカに自慢がてら伝授した覚えがあるわ」
「………一番教えてはいけない相手だったようですね」
『リカ姉かっこいい!!』
強盗団役の男子、哀れ。
さて、舞台上では赤ずきんが撃たれた狼を手当てしているシーンだった。
「ばかね、自分の身ぐらい自分で守るわよ」
「でも、俺は君を守りたかったんだ!!」
そんな狼に対して、赤ずきんは微笑む。
「ならあたしより強くなってから出直してきなさい。
そうしたら、おとなしく守られてあげる」
……この赤ずきん、イケメンすぎないか。
結局、劇はナレーターがうまいことオチをつけて、拍手喝采の中終了した。
面白かった。
そこは確かに偽らざる気持ちだけれども、
あの赤ずきんの家族としてはなんだか胸中複雑な俺たちだった。