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- Re: こちら藤沢家四兄妹[長女と同級生の出会い編執筆中] ( No.137 )
- 日時: 2013/11/23 18:16
- 名前: 和泉 (ID: iWD.qGKU)
♯63 「これがきっと、君を好きになったわけ 2」
一年三組、藤沢リカ。
彼女の名前はすぐにわかった。
何故なら入学式のすぐあとには、彼女は希代の美少女として学校中の噂になっていたからである。
三年生にお兄さんが一人いるらしく、このお兄さんがまた地味にイケメンだと大騒ぎ。
そんな騒ぎの渦中にたたされた藤沢さんは、不動の無表情を貫いていた。
「藤沢さんってすっごく可愛いよね!」
と言い寄る男子を
「どうも」
と一蹴。
「調子のってんじゃないわよ!!」
ときれる女子には無視を貫く。
そのうち藤沢さんに近寄る人は誰もいなくなった。
可愛くても無愛想な子はおよびではなかったらしい。けれどそんなことを気にする様子もなく、彼女は淡々と日々を過ごしていた。
俺は藤沢さんに話しかけてみたかったけれど、勇気がでないまま。
誘われるままサッカー部に入部し忙しくなった俺は、いつのまにやら藤沢さんのことは忘れていた。
そんなある日のことだ。
「———っ!!」
「——から————!!」
放課後。
部活中に転がっていったボールを取りに校舎裏へ向かうと、誰かが言い争う声が聞こえた。
なんだろうと覗いてみると、数人の女子にかこまれて、一人の女子が叫んでいるのが見えた。
「あたしは間違ったことは言ってない!!」
一年三組のクラス委員の、三好ユキだった。
「だからあたしたちの邪魔してんの?
正義感ふりかざさないで、マジでうざいから」
「藤沢さんが何をしたって言うのよ!」
藤沢さん?
頭に、桜とひらめいた黒髪が浮かんだ。
彼女がなんなんだ。
「あんたたちがやったことは卑劣だ!!
藤沢さんの靴を捨てたり、机に落書きしたり花瓶をおいたり!
これみよがしに悪口言って、向こうが黙ってれば顔ひっぱたいて!!」
あとで聞いたことだけれど、藤沢さんは春から女子グループにわりとひどいいじめを受けていたらしい。
問題にならなかったのは、彼女が全て無視したから。
けれど三好はそんな藤沢さんの姿を見ていられなかった。
靴が捨てられたら一緒に探したし、机に落書きされたら一緒に消した。
最初は三好を警戒していた藤沢さんも、徐々に心を開き始めた。
けれど、女子グループはそれをよしとしなかった。
藤沢リカにかまう三好を疎ましく思い、呼び出した。
それが、俺の出くわした場面だった。
「あんたも痛い目、みとく?」
主犯格らしい女子の声がぐっと下がった。
そしてひとりの女子が持ってきたのは、水の入っているらしいバケツ。
止めないと。
そこでようやく停止していた頭が動いた。
その時はそれがどういう状況かなんていまいち理解していなかったけれど、
三好は悪くないことだけはなんとなく伝わったから。
「待…………っ!!」
慌てて足を踏み出そうとした瞬間。
「邪魔よ」
あの日とその声が重なった。
「藤沢、さん」
またいつもの綺麗すぎて怖いほどの無表情で、藤沢さんがそこに立っていた。
呆然と彼女を見つめていると、ふと手元に気がついた。
おい、ちょっと待て藤沢リカ。
「その手に持ってるものはいったい……」
「目には目を、歯には歯をって言うでしょう」
何する気ですかあなた。
その手には、女子の集団の手にあるバケツと同じ、水の入ったバケツ。
藤沢さんはあっけにとられた俺を横目に、優雅に背後から彼女たちに近より、
「わー、手が滑った」
あからさまな棒読みで水をぶっかけた。
悲鳴が上がった隙に空になったバケツを投げ捨て、
三好にかけられるはずだったバケツの水を回収している。
「藤沢ぁぁぁあ!!!!!」
「何か?」
しれっとした顔で、藤沢は三好をかばうように三好と女子の集団の間に入った。
奪ったバケツを軽く揺らすと、女子がざわめく。
また水をかけられるのではと気持ちが引いたようだ。
「先生に言ってやるから!!」
女子の一人が苦し紛れに叫ぶも、
「いいわよ。
あたしも今まであなたたちにされてきたことをきちんと報告するいい機会だわ」
藤沢さんは動じない。
「あなたたちが嫌いなのはあたしでしょう。
三好ユキにまで手を出すなら、もうおとなしくなんてしてやらない」
その声は深く強く響いた。
「あなたはこの水を、三好ユキにかけたかったのよね?」
藤沢さんが主犯格の女子に尋ねる。
相手は答えない。
けれど、藤沢さんはにっこり笑ってバケツを持ち上げた。
また水をかけられる。
女子の集団が身をすくませる、が。
ばしゃりと水をかぶったのは他でもない。
「藤沢さん………っ!?」
藤沢リカだった。
自分で自分にバケツの水をかけた。
「これでおあいこ、ね」
女子たち以上にびしょ濡れの藤沢さんが笑う。
そして、バケツを思いっきり地面に叩きつけた。
「金輪際、あたしたちに近寄らないで」