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Re: こちら藤沢家四兄妹[長女と同級生の出会い編執筆中] ( No.140 )
日時: 2013/12/02 17:53
名前: 和泉 (ID: nAiEZrNa)  


♯64 「これがきっと、君を好きになったわけ 3」

「ばか、藤沢さんのばか!!」

「濡れなくてよかったね、三好ユキ」

「フルネームで呼び捨てすんのやめてってば!!
私が濡れなくても藤沢さんが濡れてたらダメじゃん!!
庇わなくてよかったのに!!」

「先にあたしを庇ったのは三好ユキじゃない」

「だけど……っ」

藤沢さんの啖呵にびびった女子の集団が逃げたあと。
俺は完全に出ていくタイミングを逃した。

たぶん俺は立ち去るべきなんだろう、とは思っても何故だか足が動かなかった。

「あたし、わりといじめには慣れてるの」

「…………うん」

小さな声で藤沢さんが呟く。
いつも無双状態を貫く彼女の弱々しい声を、俺は初めて耳にした。

「自分の容姿がどんなものかは自覚しているつもりだし、それで嫌がらせされるのもよくあるから。
だからいいやって思った。
家族がいたら友達なんて別に要らないって思った。

でもね」

藤沢さんの声が震えた。

「三好ユキがあたしを庇ってくれたこと、すごくすごく、嬉しかった……っ」

「藤沢さん」

「机の落書きも、なくなった上履きも、捨てられた鞄も全部、
あたしより怒ってくれたあんたがいたから、今までで一番辛くなかった。
頑張れたんだよ。」

いつも毅然としていて、かっこよくて、そんな藤沢さんが初めて見せた弱さだった。

「………藤沢さん、私と友達にならない?」

三好ユキの問いかけに、藤沢さんは小さく頷いた。



そのあとそのびしょ濡れじゃ帰れないだろうし、まだ人のいる校舎を横切るのも無理だということになり、
三好が保健室でタオルとジャージを借りてくる、少し待っていてと走り去った。
俺に気づかれるかと思ったけれど、三好は相当慌てていたらしく俺を素通りして走り去った。

ひとり、校舎裏に取り残される藤沢さん。

俺はゆっくり、彼女の前に足を進めた。

「はい」

そっと自分の肩にかけていたタオルを差し出す。

「………まだいたんだ」

「まあね。
なんか会うたびびしょ濡れだね、藤沢さん」

「……あ、川にいたへたれ男か。あんた」

「思いだし方ひどい」

ばさりと藤沢さんの頭からタオルをかけて、わしゃわしゃと拭いてあげる。
藤沢さんはされるがままだった。

「かっこよかったよ」

「………え」

「藤沢さん、かっこよかった」

惚れたかも、そうふざけて言うと、力の無いパンチがぽすりと飛んできた。

「ばーか」

そのからかうような声に、一瞬大きく胸が高鳴った。

それからだ。
かっこよくて、でもただ強いだけではない彼女をもっと知りたいと思い始めたのは。

「藤沢さん!!」

「うざい」

クラスが違うから接点はなかなか無かったけど、ことあるごとに声をかけた。
藤沢さんは顔をしかめながらも、他の男子のように俺を遠ざけはしなかった。

その内、藤沢さんの毒舌キャラが受けて、彼女はいつのまにかクラスの人気者になった。
友達、という存在もたくさんできたようだったけれどいつもそばにいるのは三好ユキだった。

そんな日々を積み重ねているうち、いつのまにか藤沢さんを好きになっていた。

もっと一緒にいたい、もっと彼女を知りたい。

そんな欲求から思いきって告白した中1のバレンタイン。


「俺を彼氏にしてください!!」

「だが断る」


俺はざっくり振られた。