コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.147 )
日時: 2013/12/23 08:41
名前: 和泉 (ID: 6xDqgJhK)  


♯67 「長女と同級生の朝」

みなさんおはようございます。
藤沢家長女の藤沢リカです。
あたしは今全力で現実逃避したい気持ちです。

「どうしたの、藤沢さん」

「何故ここにいるのかしら日下部くん」

「藤沢さんに会いたかったから?」

「殴るわよ」

今日は、ナツ兄の通う一ノ宮高校、通称イチコーの文化祭だ。
あたしは双子と父と行く予定で、朝から慌ただしく用意をしていたのに。

午前9時丁度に我が家のチャイムが鳴り、扉を開けると日下部が現れた。

「おはよう藤沢さん、イチコーにいかない?」

没頭に戻る。

「っていうか、イチコーの文化祭、身内以外が行くには招待券が必要なはずよ。
あんな人気校の招待券が手に入るはず」

「あるんだな、それが」

そう言って日下部が取り出したのは、間違いなくイチコーの文化祭の招待券。
端には小さく藤沢夏というサインも入っている。

「ナツさんの知り合いって言う名文で、ナツさんが招待券押さえてくれました!
ちなみにこれをもらう条件は、イチコーの文化祭で藤沢さんの虫除けになること。
いやー、願ったり叶ったりだね」

あのくそ兄貴。
あたしは深くため息をついた。なんでこんなタイムリーな人間呼ぶかな。

正直、あたしは今、日下部を直視できないのだ。
オレンジジュース間接キス事件があたしに残した傷は深い。
今やつと一日一緒とか全力で遠慮したい。

「ナンパは自分で何とかするから、イチコーには別々に行こう。
あたしは双子の面倒を見る義務が」

日下部の誘いを、すっぱり断ろうとしたときだった。

「ないない。義務とかない。日下部くん、リカをよろしくね」

どーんといつかみたいに勢いよく背中を押された。
何これデジャヴ。
よろめいたあたしの体を日下部が片手で受け止め、
もう片方の腕で後ろの人物が投げつけたあたしのコートとバッグをキャッチする。
小器用なやつめ。

「〜っ、父さんっ!!」

あたしは背後に立っていた父さんに噛みついた。
しかし父さんは余裕の表情でひらひらと手を振っている。

「いってらっしゃい」

「行かないってば!」

「アヤ、ヒロ、リカ姉先にイチコー行くって!!」

「待ってよちょっと!!」

『リカ姉、いってらっしゃーい!!』

「ちょっと、ほんとになんなの!?」

ドアから顔をのぞかせた双子をにらむと、双子はにこにこと手を振った。

「あったかく見守るんだよねー」

「ねっ」

「は!?」

何を言っているんだ。
わけがわからず目を白黒させていると、父さんがピースサインでとどめをさした。

「ナツ君主催の、"リカと日下部を生暖かい目で見守りつつ応援しようの会"の会員になりました!」

「アヤ、会員No.2なんだよ!」

「おれはNo.3」

「ちょっと待て」

元凶はお前か藤沢ナツ!!

あたしの隣で日下部はにこにこと笑っている。
どうやらあたしの同級生は、ナツ兄という最強の味方を手に入れたらしい。
いったい何をしたんだ。

どうやら日下部とイチコーに行くという選択肢しかあたしには残されていないらしい。


反抗するのもめんどくさい。
早々に諦めたあたしは、深いため息と共に閉まっていくドアを見つめていた。



あたしはまだ知らない。

イチコーの文化祭で、「鬼」に出会うこと。

あたしはまだ知らない。

忘れていた現実が、目の前に迫りつつあること。


知っていたら、イチコーには決して行かなかったのに。




この世界は、いつだって残酷だ。