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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.149 )
日時: 2013/12/28 22:12
名前: 和泉 (ID: e.d4MXfK)  


♯69 「同級生と長女と長男の文化祭 2」

そんなこんなで、inお化け屋敷。

「なんか出る!!なんか出てくるよ藤沢さん!!」

「お化け屋敷なんだから、なんかでてこなきゃおかしいでしょう」

真っ暗闇のなか、平然と懐中電灯を手にした藤沢さんが突き進んでいく。
その後ろをビクビクしながらついていく俺。情けない。

ふふふふふっという笑い声があちこちから聴こえてきた。

「藤沢さん、なんか笑ってる!!何かが笑ってるよ!!」

「へー。幽霊がM1でも見てるんじゃない」

「幽霊がM1見てたらさすがの俺も突っ込むよ」

前をいくグループの叫び声を華麗にスルーして、バカな会話を繰り広げる俺たち。
そんな俺たちの足元から、ずばーんと髪を流した血だらけの男が顔を出した。

「うわぁぁぁぁあっっ!!!!!」

叫ぶ俺に。

「邪魔よ。足元から出てくるアイデアはすばらしいけど、客の進行方向妨げてんじゃないわよ」

全く動じない藤沢さん。
それどころがお化けにダメだし。
お化けがすごすごと引き下がったぞおい。

その後も、

「うわぁぁぁぁぁあ!!!!!」

「血糊が足りてないわよ。つけなおしてきなさい」

「や、ちょ、うぉぉいっ!!!!!」

「こんにゃくの位置、低すぎ。
皮膚に当たらないからこんにゃくの意味なし」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁあっっ!!」

「あなたは演技力が足りてない。
ゾンビじゃなくて横綱に見える。はい、次。」

なんでだろう。
なんでこんなに藤沢さんは生き生きしてるんだろう。
お化け役の生徒もなんで藤沢さんの言うことを真面目に聞いて、
こんにゃくの位置を高くしたり血糊つけ直したりしてるんだろう。

そこで俺はようやく理解した。

藤沢さん、お化け屋敷大好きなんだな。

お化け屋敷に入ること10分。
出てきた藤沢さんは清々しく笑っていて、俺はげんなりと壁に手をついていた。

「次!どこ行く?」

笑顔の藤沢さんがこちらを振り向く。
笑顔の原因は明らかにお化け屋敷だけれども、まあいいかと思うことにした。

「安全で心穏やかにいられる場所がいいかも」

「じゃあ、あえて"ヲタクの聖地、アニメ漫画研究部"にでも行ってみる?」

「それいろんな意味で心が折れそうだからやめて」

俺はくすくす笑う藤沢さんの横からプログラムをのぞきこんだ。

その時だ。

「—————————リカ?」

か細い女の人の声が聞こえた。
その声は、確かに藤沢さんの名前を呼んだ。

ばっと振り向く。けれど、こちらを見ている人なんて誰もいない。
声の主はもう雑踏に紛れてしまったみたいだ。

「どうしたの?」

「なんでもないよ」

ふわりと笑って、俺はこの場から離れるために藤沢さんの手を引いて歩き出した。

なんだかひどく、胸騒ぎがした。







「リカは今、14なのよね?」

「落ち着きましょう」

「あの子、リカじゃないかしら」

「落ち着いてください」

「だって、藤沢さんって呼ばれていたわ。
あの子、リカじゃないかしら。
リカは藤沢さんという方にもらわれたんでしょう。
あの子、リカじゃないかしら。
だって孝人さんと同じ顔をしていたもの。
左の手首に、ぎざぎざの傷跡があったらリカなのよ。
手首に、手首を見せて」

「落ち着いて!!」

「あの子の手首を」

「手首確認してどうするんすか!!」

「…………」

「彼女がリカさんだったとして、あなたはどうするんすか」

「…………私が、傷つけたの」

「…………」

「手首の傷だけは、孝人さんじゃなく私がやったの。
あの子を殺そうとしたの。
私も死のうと思ったの。
でもできなかった。結局、私はあの子を忘れて救われようとした」

「…………何度聞いても、吐き気がするくらい最低な話っすね」

「…………でも、ちゃんと思い出したの。
やり直したいって、思うのはいけないことなの!?」

「…………さあね」

リカさん次第っすよ、全ては。


お化け屋敷から少し離れた階段の踊り場で、二人の狂った男女が壊れた言葉を吐いた。