コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.154 )
- 日時: 2014/01/04 18:06
- 名前: 和泉 (ID: 6xDqgJhK)
♯71 「罪悪感と言う名の逃げ道」
「………おねー、ちゃん」
呆然とリカが呟いた瞬間、顔を真っ青にした佐々木が走って逃げていった。
「佐々木っ!?」
なにがどうなっているんだ。
そう思う反面、俺は頭のどこかで冷静に事態を受け止めていた。
予感はしてたんだ。
俺たちの知らないところで何かが起きていく予感。
あの、夏祭りの日から。
「あたしは、あたしは……っ」
がくがくと震えるリカに、廊下にいる客の注目が注がれている。
『残酷ね』
ふいに母さんの一言が頭をよぎった。
『残酷だわ』
ああ、残酷だよこの世界は。
でもさ。
「あなたは何か勘違いされているようだ」
ちゃんと、救いのように俺たちを助けてくれる存在もあるんだ。
「彼女は、俺の娘です」
女性の間に割って入ってリカと引き離した父さんは、ぐいっとリカを日下部に押し付けた。
「日下部くん、俺はこの二人と話があるからリカと双子をお願いできる?」
「あ、はい」
「じゃあ今すぐ三人をつれてここを離れて」
日下部が震えるリカの肩を抱いて、双子をつれて歩き去る。
それを慌てて追おうとした女性の腕を掴んだ父さんは、低い声でこう言った。
「これ以上子供を自分の勝手な都合で傷つけるな。
自分勝手な親に成り下がるんじゃない」
残酷で、汚くて、自分勝手なエゴに溢れている世界だけど。
それでも曲がらずにきちんと俺たちを守ってくれる存在だってあるんだ。
どんなにめんどくさい事態になったって、きちんと俺たちに向き合ってくれる。
だったら俺も向き合わなくちゃ。
俺は父さんが女性を連れてこの場から立ち去ったことを確認して、
未だにざわつく人混みに隠れた影を追いかけた。
——————お前は、本当のことを全部知っているんだろう。
「待てよ、浩二っ!!」
人混みに紛れて階段を降りようとしていた浩二の腕を掴む。
「—————どうしたんだよ、ナツ。
さっきリカちゃんが」
「今はいい。
将来有望な彼氏候補にリカは任せた。
それよりお前だ、浩二」
「は?何言ってんだ?」
「隠し事、もうやめようぜ?
俺がなんにも気がついてないとでも思ってんのか」
「ナツ、ほんとにお前」
笑ってごまかそうとする浩二の首を、俺は思い切り掴んで顔を近づけた。
「今日、佐々木の両親を呼んでリカにはちあわせさせたのはお前だろ、浩二」
佐々木は文化祭に家族を呼ぶのか、以前そう聞いたとき、佐々木は首を振った。
「母は精神病なんです」
だから連れてこない、文化祭の日程も伝えていない。
佐々木はおそらく、ずっと前から藤沢梨花が自分の妹であることに気がついていた。
佐々木の母親はリカを求めている。
佐々木はおそらくリカが藤沢家で幸せに暮らすことを望んでいる。
文化祭に訪れたリカと佐々木の母親がはちあわせすることは避けたいはずだ。
佐々木が両親を呼ぶわけがない。
では何故佐々木の両親がいるのか。
全くの推測でしかないが、他に佐々木の両親を呼ぶ人間なんて浩二以外思い付かない。
「俺がそんなことをするメリットは?」
浩二がうさんくさい笑みで手をひらひらと降る。
それを睨み付けて、俺はいい放った。
「藤沢家を守るためだろ」
浩二の顔が歪む。
顔を歪めた浩二は、くくくっと、面白くてたまらないとでも言うように笑った。
「ははっ、なんで佐々木の両親を呼ぶことが藤沢家を守ることに繋がるわけ?
だいたい藤沢家を守る、なんてそんなことを俺がする理由」
「あるだろ」
余裕の笑みで俺の話を否定しようと言葉を連ねる浩二。
それを遮って、俺は静かに続けた。
あるんだよ、たったひとつ。
お前が藤沢家を守らなきゃいけない理由。
「お前は、佐々木と同じなんだろ。
佐々木が梨花の実姉なように、お前はアヤの義兄なんだ。
立花紫乃の恋人の男には家庭があった。
その家庭の一人息子がお前なんだ。
そして、アヤの誘拐事件にも一口噛んでいる。
———————違うか?」
アヤの誘拐事件から、ずっと考えて弾き出した答え。
痺れるような空気。
触れたら壊れるような緊張感。
その真ん中に立つ浩二は、にっこり笑ってこう言った。
「—————ご名答。
いつから気づいていたのか全部問いただしたいところだけど、まずは場所を変えようぜ。
お前の推理を聞いてやろうじゃねーか、探偵さん?」
俺は大きく息を吸う。
両親を亡くして、藤沢家にやってきた。
小学校も転校した。
転校先で一番に友達になってくれたのは、浩二だった。
その友情は今日まで続いてきた。
親友なんだ。大事なんだ。
ちゃんとお前に向き合うから。
「いいぜ。全部、暴いてやる」
お前も、そろそろちゃんと現実に向き合えよ。