コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.18 )
- 日時: 2013/08/08 22:13
- 名前: 和泉 (ID: F5B8s22.)
♯7「長女とはやとちりファザー」
あたしは困っていた。
困っていた。三回言おう、困っていた。
だって。
「なんなんだ君は!!うちのリカちゃんのいったいなんなんだ!?」
叫ぶスーツにそこそこイケメンのおっさん(うちの父親)に
「あー、藤沢さんの彼氏予備軍ですー。以後よろしくお願いします、お父様?」
中身残念ストーカー男(日下部)が目の前で言い争っているのである。
だいたい日下部。彼氏予備軍ってなんだ。虫歯予備軍か。
強いて言うならお前はストーカー予備軍だ。
なんて心の突っ込みを声に出すのも面倒くさく、あたし、リカは深く深くため息をついた。
そもそもこの状況に陥った理由は、30分前に遡る。
塾での勉強も一段落つき、帰ることにしたあたしと日下部。
ぽつりぽつりと言葉を交わしながらも、あたしはひとり、顔を上げられずにいた。
何故なら。
(なんでだ!?日下部が直視できない!!)
そう、思いっきり日下部を意識してしまっていた。
いや、だってさっき頭撫でられちゃったから。
手、意外とおっきかったなぁとか、優しい手つきとか思い出して……、あー、もう忘れろバカバカバカ!!
こんなのナツ兄と一緒!!
むしろナツ兄のがかっこいい!!
だから決してこいつの優しさにほだされたりなんかしてない!!
バカバカ、なんで素直にお兄ちゃん大好きなんてこいつに言ったの自分!!
自分のあり得ない反応をごまかすため、ぎゃんぎゃん頭のなかでわめいていたあたしは気づかなかった。
日下部との会話がだんだん適当な返しになってることも、日下部がそれにつれて不機嫌な顔になってることも。
「藤沢さん」
「…………(聞くな見るな無心になれ)」
「藤沢さーん」
「……………(よし、困ったときの般若新行だ。観自在菩薩行仁般若波羅御多慈……)」
「………へえ、そういうことするんだ」
すっと日下部の声が低くなったのと同時に、突然、左手を握られた。
びくっとして反射的に顔をあげる。
目の前にはちょっと怒ったような顔の日下部。
日下部の手が、あたしの頬に伸びる。
「俺の顔、見てよ。
こっち向いてよ、ねえ」
————あ、だめだ。
あたしもう、限界だ。
硬直したあたしと、あたしの顔をのぞきこむ日下部。
帰り道、夕暮れの住宅街の道が赤に染まっていく。
そのとき。
「ちょーーーっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
この状況に明らかに合わない、おっさんの声が響いた。
びっくりして顔をひねると、そこにいたのはまぎれもなく。
「え、父さん!?」
母さんの部屋に飾るのであろう、花束を抱えたあたしの父親の姿だった。