コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.23 )
- 日時: 2013/08/09 18:17
- 名前: 和泉 (ID: ilLKTbvz)
♯10 「長男と藤沢家の晩餐 2」
とりあえず、双子がお腹空いたとわめきだしたので、全員席について冷麺をすすり出した。
うん、うまい。
成績は上がらないのに、料理の腕はどんどんあがるなぁ俺。
ちょっと苦笑しながらトマトをかじっていると、
「おかーさん、アヤのハムあげる!!」
「ずるい!!ヒロの卵もあげる!!」
母さんを挟んで座っている双子が、こぞって自分の好物を母さんの皿にのせた。
嫌いなものをあげたなら叱れるのだが、好物だ。
二人の母さんに元気になってほしいという気持ちを言外に感じて、何も言えなくなる。
母さんもそれを感じてか、自分で食べなさいとはよく言わなかったのだろう。
ふわりと笑ってこう言った。
「あらあら〜、ありがとう。じゃあ交換にしましょうか」
そして自分のハムと卵をアヤとヒロの皿にのせる。
実際は何も変わっていないのだけど、アヤとヒロは納得したらしい。
自分の分をもそもそと食べ出した。
そんな双子を見て、父さんもにこにこと微笑んでいた。
リカはというと。
「ナツ兄、おかわり」
食べ終わっていた。
………あれ、俺大分リカの皿に麺盛ったはずなんだけどなー。
おかしいなー。
苦笑いしながら新たに冷麺を盛り付けているリカを眺めていると、あ、そうだと母さんが声を出した。
「明後日の夏祭り、友達といく約束してる?」
夏祭り?
そういえば明後日だったっけ。
この辺りの地域の夏祭りは大分大きい。
朝から神輿がいくつも街の中を巡り、花火も打ち上がる。
去年はヒロが風邪を引いたからアヤもいかないと言い出し、結局俺もリカも行かなかった。
今年は忙しくて夏祭りの存在すら忘れてた。
「いや、俺はしてない。リカは?」
「あたしが夏祭りにわいわい友達と出掛けるようなキャラに見えるの?」
「見えませんごめんなさい」
そうかそうかと笑う母さん。俺、もう母さんが何言いたいかわかったぞ。
「そっかぁ。じゃあ四人で行ってくる?」
はいきたー。俺大正解。
そんな母さんの提案に、目を輝かせたのは双子だった。
『行きたい!!』
「去年行けなかったもんねー。
ふふふ、お母さん暇だったから、なんとヒロとリカの浴衣を部屋で仕立ててたんでーす!!
あとで着てみる?」
『ちょっとまて!!』
珍しくリカとセリフがかぶった。
いや、でも今のセリフは聞き逃せん!!
なにやってんだ病人!!
「やだ〜、そんな怖い顔しなくても、ちびっこ二人の浴衣縫ったくらいでお母さんはダウンしませーん。
サイズ図ったり、布買いにいったりはかなめくんに頼んだしね」
「あんたも一枚噛んでんのか!!」
「いやー、だって涼子さんのお願いだよ?聞くしかないでしょう!!」
くそ、この親父!!
よくやってくれたなと父さんを睨み付けるが、そしらぬ顔で本人は冷麺を掻き込んだ。
おーい、箸が逆向いてますよー。
「りっちゃんとなっちゃんは、お母さんとお父さんの若い頃着てた浴衣を着ていけばいいわ。
着付けは前に教えてあげたからできるよね。アヤとヒロに着付けも頼んでいい?」
若干諦めのついた俺は、ため息をついてうなずいた。
「わかった。アヤ、ヒロ。明後日お兄ちゃんたちとお祭りいこっか」
「いいの!?」
「うん。出店いっぱいあるよ。いーっぱい遊ぼう。
リカもいいよな?」
不満げに口を尖らせていたリカだったが、俺が聞くと仕方なくといった感じでうなずいた。
母さんの気持ちは、俺たち二人はよくわかるから。
普段部屋にこもったきりの母さん。アヤとヒロに何か母親らしいことをしてやりたかったんだろう。
俺たちが友達と祭りにいく約束をしていたなら、きっと無理してでも父さんと一緒に双子を祭りに連れていったはずだ。
ほんとは俺たちの浴衣も縫いたかったんだよって、その目が言っていた。
「母さんの浴衣、あたし似合うかな」
そっとつぶやいたリカ。
そんなリカに似合うよ、絶対と笑って返す母さん。
幸せな時間が、流れていた。