コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.26 )
- 日時: 2013/08/10 09:54
- 名前: 和泉 (ID: ilLKTbvz)
♯11「長男とクラスメイト」
「藤沢、夏祭り一緒にいかない?」
「ごめん、俺兄妹と行くから」
「えー、高校生で兄妹でいくとかマジであるの?
実は彼女とかいるんじゃないの?」
「いないってー」
ああ、もう。うざい。
俺は夏祭りにいこういこうとしつこいクラスの女子ににっこりと笑顔を向けた。
ああそうだよ、まじで高2になっても兄妹で夏祭りにいく家庭はあるんだよ!
すなわち藤沢家だよこのやろう!!
夏休み。
ぶっちゃけ俺、藤沢ナツの通うイチコーにはそんなものは存在しない。
夏休みにも全員必修の補修がつきまとうからである。
俺ももちろん例外なく補修である。
今日の夕方夏祭りがあるとか、
学校からしたら知ったこっちゃないのだろう。
目の前で、クラスの女子が騒ぐ。
どんだけいったって、俺はあんたらとは夏祭りに行かないから。
そんな言葉も口から出ないほど、俺は正直やつらの騒がしさに疲れていた。
そっと、目を伏せる。
その時。
どさり、という音と共に俺の前に大量のノートが置かれた。
ぽかんと口を開けた俺とクラスの女子が顔をあげると、そこには
「藤沢くん、補修のノート出してください」
うつむきながらの小さな声で、それでもきっぱりと場を遮るようにそう言い放つ、学級委員の佐々木杏奈がいた。
佐々木杏奈はうちのクラスの学級委員で、比較的目立たない生徒だ。
俺も今年初めて同じクラスになり、話したことも数えるほどしかない。
でも今この現状に佐々木が助け船を出してくれたんだと、
気づかないほど鈍感にはなれなかった。
「早くだしてください」
もう一度同じセリフが繰り返された。
女子たちは気持ちがそがれたのか、つまらなさそうに佐々木を睨み付けて去っていく。
それを見送ってようやく一息ついた俺は、補修のノートの山を半分手にした。
「ありがと、正直助かった。お礼に半分もつわ」
「ありがとうございます」
ノートをもって、教室を出た。職員室までは割りとすぐだ。
なにを話すでもなく足を進めていると、ふと佐々木が口を開いた。
「藤沢くんは、家族をとても大切にしているんですね」
それは予想外の一言だった。
さっきの話聞いてました、すみませんと繋げて、佐々木はそっと俺から目をそらした。
「私はあまり、家族には恵まれなかったので。
大事にできる家族がいるというのは羨ましいです」
そういって緩く口許をあげる。
その笑顔が何故かひっかかった。
なんでだろう。
俺はこの笑顔を、ずっと前から知っているような気がする。
「藤沢くん?」
「あ、ごめん。なんでもない」
「そうですか」
そう言って、職員室前に到着した佐々木は、すっと俺からノートを取り上げた。
「ありがとうございました。
妹さんを大事にしてあげてくださいね」
そういって、職員室に消えた佐々木。
それを見送って、ふと思った。
俺、兄妹がいるとは言っても、妹がいるなんて言った覚えはないんだけど。
佐々木に、妙な胸騒ぎを感じた瞬間だった。