コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.27 )
- 日時: 2013/08/10 11:22
- 名前: 和泉 (ID: AzAx2/ma)
♯12「長女と夏祭りと藤沢家の秘密」
人が多い。
神社の境内で、あたしは自分の浴衣を見下ろしながらそっとため息をついた。
淡い水色に白とピンクの小花が散っている浴衣。
帯は綺麗な山吹色。
あたしより身長の高いはずの母さんの浴衣は、着てみると驚くほどぴったりだった。
きっと隠れて裾をあげてくれていたんだろう、ばればれだよ。
「リカ姉、リカ姉。アヤ、浴衣似合ってる?」
あたしに手を繋がれたアヤが嬉しそうに尋ねる。
今日その質問は何回目だろう。よっぽど嬉しかったんだろうな。
確かに母さんが縫った茜色の浴衣は、アヤによく似合っていた。
「すっごくかわいいよ」
そう言って笑ったところで、ヒロを連れて川原に花火を見るための場所取りに行っていたナツ兄が帰ってきた。
心なしかぐったりしている気がする。
そりゃそうか、川原なんて花火を見るための特等席みたいなものだ。
想像を絶する戦いがあったのだろう。
「よし、行くかー。
とりあえず花火があがるのが二時間後だから、今から遊び倒すとして」
気を取り直してナツ兄が笑う。その言葉の続きを引き取った。
「花火が始まる30分くらい前に出店で食べ物買って、ナツ兄がとってきてくれた場所で花火見ながらご飯にしましょうか」
そう言ってヒロとアヤをみれば、二人はきらきらと目を輝かせた。
さて、これは祭りに連れてきたかいもあったと言うものだ。
「何から遊ぶ?」
ナツ兄が元気よく双子に尋ねた。
しかし双子の回答は
『バーン!!』
もはやただの擬音語である。
ナツ兄はかなり困惑した顔で、
「バーン!?バーンてなんだ!?」
と悩んでいた。
もう、バーンと言えばひとつしかないだろう。
「そうね、射的いきましょうか」
『わーい!!』
「バーンて射的のことなの!?
よくわかるなリカお前!!」
「バーンの次は何がいい?」
『ぽいってするやつ!!』
「金魚すくいね」
「ねえなんでわかるのお姉さん!!」
わめくナツ兄を放置して、あたしはアヤの手を引いて、祭りのざわめきの中を歩き出した。
射的の出店はまだあまり人がいなかった。
これ幸いとお金を払って双子に鉄砲をもたせてやる。
しかしそこは五歳児。
よろめいて的が定まらず、一発も的中することなく終了。
涙目になった双子の代わりに、
「よし俺がいく!!」
とナツ兄が意気込んで鉄砲を手にしたが、案の定全部外れた。
「情けないわね」
ため息をついてそう言えば、ぐるんとナツ兄がこちらを振り向いた。
「うるせー!!そういうお前はまだやってねえじゃねぇか!!」
「………へぇ。
あたしがナツ兄みたく意気込んで無駄に期待させたあげく全部外したりするとでも?」
なめんじゃないわよ。
緩く口許をあげて見上げれば、一気にナツ兄の顔が青ざめた。
そんなナツ兄を放置して、あたしは200円を出店のおばちゃんに渡す。
さあ、あたしに鉄砲を持たせたことを後悔するがいいわ。