コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.28 )
- 日時: 2013/08/10 12:08
- 名前: 和泉 (ID: /N0hBVp7)
♯13「長男と夏祭りと藤沢家の秘密」
後悔した。
藤沢リカに射的をやらせたことを後悔した。
俺じゃない、きっと射的のおばさんがだ。
「リカ姉すげー!!」
「リカ姉、次はあれも!!」
「黙んなさいよ、集中が切れる」
この状況を強いていうなら、女王様が降臨した。
射的の一回で使える弾は5発。
リカは今3発目をうったところ。
手元にある景品の数は六個。
おわかりだろうか。
リカは一発の弾で平均二つは景品を勝ち取っているのである。
さっきはキャラメルの箱の縁に弾をあて、跳ね返らせた弾で近くのぬいぐるみを倒すという神業を披露した。
射的のおばさんはすでに涙目である。
「ナツ兄」
「はい、なんでしょう!」
そしてリカは放った。
恐怖の一言を。
「千円あれば確実にこの店の景品全部手にはいるけど、どうする?」
「やめてあげてぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
双子の目が輝いた。
しかし出店のおばさんの目は死んだ。
兄ちゃんはやらせんからなそんなこと!!!!!
その後、射的でスイッチが入ったらしいリカはもう無双状態だった。
金魚すくいをすれば店の最高記録をうちだし、ストラックアウトをすれば全部的中。
一時間がたつ頃には、出店の連絡網でリカの情報が回ったらしい。
リカが行った出店の主人の顔が青ざめていた。
「水色の悪魔」の名がちらりと聞こえたから間違いないだろう。
しばらくして散々景品を勝ち取り、いい加減周りの目が痛くなってきたとき、ヒロがぴたりと足を止めた。
なんだろうと見てみると、そこにあったのは飴細工の出店だった。
ヒロがそれをすっと指差す。
「ナツ兄、あれ買いたい」
「え」
「おかーさんのお土産に、あれ買いたい」
キラキラ光る飴細工。
ヒロがそれをじっと見つめてそう言った。
ああ、いい子に育ったな。
ふとそう思って泣きそうになった。
「いいよ」
そう言って飴細工の出店に近づく。
リカが300円をだすと、出店の兄ちゃんが愛想よく笑った。
「なんの形にしますか?」
母さんのお土産。
なんの形がいいかな、と考えた瞬間。
『ム●カ!!』
双子が叫んだ。
「おいこらちょっと待て!!」
俺も続けて叫ぶ。
ちょっと待てお前ら!!
出店の兄ちゃんもびっくりしてんじゃねぇか!!
ム●カを母さんの土産にする気か!!
3分待てとかまたいう気か!!
お前らさっきの俺の感動を返せ!!
「んー、兄ちゃんちょっとムス●つくるのは厳しいかなぁ」
出店の兄ちゃんが苦笑する。
そりゃそうでしょうね。
五歳児にそんな注文受けたり普通しませんよね。
呆れがおで俺が頭を下げたとき、ぽつりとリカが呟いた。
「桜の花の形にしてください」
出店の兄ちゃんがうなずいて飴をつくりだす。
俺はそっとリカの横顔を見つめた。
リカはまだあの日のことを覚えているんだろうか。
桜が咲いていた道路。
歩道橋から身を乗り出した女の子。
叫んだ母さん。
抱き締め合う二人を眺めていた俺。
二人の代わりに、空を舞った母さんの桜色のショール。
あの日から、桜は藤沢家の象徴だ。
ぼんやりと器用に作られていく桜の飴細工を眺めていたとき、後ろから声がかかった。
「あれー、藤沢だー」
振り替えると、そこにいたのは。
数人のクラスの女子だった。