コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.31 )
- 日時: 2013/08/10 15:48
- 名前: 和泉 (ID: ZsfIQqc0)
♯14「長女と涙と滲んだ花火」
「あれー、藤沢だー」
その声に振り向いてみれば、そこにはちょっと派手な感じの女子高生が数人立っていた。
どうやらナツ兄のクラスメイトらしい。
綺麗な人たちだな、と思う。
でもなんだか嫌な感じだった。
「まじで兄妹で来てんだー。ウケるー」
「いや、もしかしたらそっちの水色の浴衣の子が彼女かもよ」
「え、マジで!?」
視線が痛い。
その視線をはねのけるように睨み付ければ、彼女たちは気まずそうに目をそらした。
「妹だよ。中学生なんだ」
ナツ兄が困ったような声で言う。
その声の奥のかすかなイラつきを感じとってか、アヤの手に力が入った。
「へぇー、妹ちゃんなんだぁ。かわいー」
とてつもなく棒読みの誉め言葉をありがとう。
そうは言わないあたしはずいぶんと大人になった。
うんざりしながら、はやくこいつらどっか行かないかな、と見ていると。
「あ、でもさぁ。
藤沢、中学生の妹ちゃんが来てるなら、そこのちびっこ二人を妹ちゃんに任せたらあたしたちと遊べるんじゃない?」
衝撃の発言だった。
……何言ってるんだろうこの人たち。
あたしは呆れてぽかんと口を開けた。
なんて無茶苦茶な理論だそれは。
「兄妹の面倒見るから、あたしたちと遊べないんでしょ。
だったらそこの妹ちゃんに任せたら30分くらいはあたしたちとまわれるよね?」
違う、絶対に。
ナツ兄はあんたたちとまわりたくなくて、あたしたちを口実に使っただけだ。
その証拠に現在ナツ兄はかなり眉間にしわがよっている。
ヒロとアヤも怖がって、あたしの後ろに隠れてしまった。
小さな子供は悪意を持つものに敏感だということを、きっと彼女たちは知らない。
「ごめん、俺今日は家族でまわりたいから」
ナツ兄が彼女たちの誘いを丁寧に断りだす。
はやく断ってくれと思いながら、それをぼんやりと見ていると、はしっこの方にいた女子の一人が私たちの前にしゃがみこんだ。
じろじろと顔を見られる。それが嫌で、すっと俯くと、彼女がのんびりと声をあげた。
「それにしても、似てない兄妹なんだね」
ぴたりと、アヤとヒロが動きを止めた。
ナツ兄の顔色も変わった。
「藤沢と妹ちゃん、全然似てないんだね。
びっくりしちゃった。
似てなさすぎて彼女かと思っちゃったもん」
「あー、わかるー。
そこのちびっこ二人も双子でしょ?
二卵性だと顔ってこんなに違うんだね」
彼女の話にのっかって、周りの子達もやいやい騒ぎ出した。
やめて。やめてやめてやめて。
「あ、でも顔のかたちは似てるかも」
「えー、ほんと?
ちょっと藤沢、妹ちゃんと並んでみてよ」
「あれ、みんな知らないの?」
「知らないって何を?」
「あ、そうか。みんな藤沢と違う小学校だもんね。
あのね、」
やめて。
おねがい、もう何も言わないで。
やめろよ、とナツ兄が怒鳴った。
お願いだからやめてくれ、と怒鳴る。
でも彼女たちは笑っている。
あたしたちを見て笑っている。
似てないって、笑ってる。
おねがいだからそっとしておいて。
あたしたちをわらわないで。
あたしたちの秘密を、勝手に話さないで。
やめてやめてやめて。
それはあたしたちには冗談じゃ済ませない言葉なの。
かんたんに、さわらないで。
「知らないの?
似てなくて、あたりまえだよ」
そう言葉を繋げたのが、誰だったかまでは覚えてない。
あたしはその言葉を聞いた瞬間アヤの手を払って駆け出したから。
「藤沢の家の子どもはね、全員養子なの。
全員、血が繋がってない他人なんだよ」