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- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.32 )
- 日時: 2013/08/10 18:07
- 名前: 和泉 (ID: 3XqMAg6I)
♯15「長女と涙と滲んだ花火 2」
泣いていた。
涙を流して泣いたのなんて、母さんがあたしを拾ってくれたあの日以来だ。
『迷子の迷子の子猫さん。
あなたのおうちは、今日からここでーす!!』
あのとき、あたしはまだ母さんを涼子さんと呼んでいて、父さんを要さん、と呼んでいた。
ナツ兄は、ナツくん、と呼んでいた。確か。
桜の綺麗な日だった。
あたしは藤沢家の一員になったのは。
涼子さんにも要さんにも、両親はいなかった。
涼子さんは事故で二人ともなくしていたし、要さんは複雑な事情というやつがあったらしい。
そんな二人は高校時代に出会って、大恋愛をして結婚した。
涼子さんが体が弱すぎて子どもが産めないことがわかったのは、
結婚してすぐのことだった。
そして、二人が結婚してから五年。
高校時代から二人の大親友だった夫婦が事故死した。
その二人の息子が、ナツ兄。
当時ナツ兄はまだ6歳だったという。
涼子さんと要さんは、ナツ兄を引き取って育てることに決めた。
それからしばらくして、ナツ兄が小6、あたしが小4の時、あたしも藤沢家に引き取られた。
アヤとヒロも実際は双子なんかじゃなく、ただ年齢が同じなだけ。
二人は孤児院で出会っただけの赤の他人。
二人は、あたしが中1、ナツ兄が中3のとき、そうつまりちょうど、二年前。
藤沢家に引き取られてきた。
藤沢家はつぎはぎだらけの家族だ。
家族のふりしてるだけの家族だ。
それでも、幸せなんだよ。
家庭に恵まれなかったあたしたちが、ようやく掴んだ幸せなの。
どうしてそっとしておいてくれないの。
泣きながら走る。
走って、走って、人気のない境内の方に走りついたとき、誰かにぶつかった。
謝ろうとして顔をあげると、そこにいたのは。
「藤沢さん?」
「日下部、くん………」
日下部だった。
変態ストーカーの癖に、彼の顔を見たらまた涙が止まらなくなってきた。
「泣いてるの!?どうしたの!?」
「な、いて、ない!!」
「いやいや泣いてる泣いてる泣いてるから!!!」
慌てたらしい日下部が、わたわたと視線をうろつかせる。
そして、あー、もうといった感じで、
「ごめん、許して」
そう言って、あたしを抱き締めた。