コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.55 )
- 日時: 2013/08/15 20:51
- 名前: 和泉 (ID: tqRRDXqi)
♯21 「このからだは、あとどれくらい」
ゆっくりと目を開けた。
もう夕方らしい。
夏は日が落ちるのが遅いから、明るくてわかんなかったよ。
だるくてうまく動かない体をどうにか動かせば、
扉がかすかに動いたのがわかった。
「だぁれ?」
尋ねると、大好きな人が顔を出した。
「起きていて大丈夫?涼子さん」
かなめくんだった。
私の大好きな人、かなめくん。
かなめくんは私の部屋に入ってきて、ベッドの端に腰かけた。
「これ、あの子達から。
昨日の夏祭りのお土産だって。
ほんとはヒロとアヤが渡したがってたみたいなんだけど、
お母さんを疲れさせたくないからお父さんから渡してって預かった。」
そういって、手にのせられたのは小さなメモが四枚。それから、桜の花を型どった、綺麗な飴細工。
『しっかり寝て、大人しくして早く治してくれ』
これはナツくん。
『浴衣、裾直してくれてありがとう。丁度だったよ』
これはリカちゃん。
『みすいろのあくも』
これはヒロくんだな。
なんて書きたかったんだろう。
水色の悪魔かな?
いったいなんなんだ、それ。
『だいむき』
これはリカだね。
だいすきって書こうとしてくれたんだな。
だいむきになってるけど。
くすくすと笑いながらメモを見たあと、飴細工に手を伸ばした。
夕日にきらきらと反射して光る。
綺麗だなぁ、と見いってしまった。
『神様なんて、いないよ』
『帰る場所なんてない!!』
『ふたりぼっちはもうやだよ』
『ただいまって、いってもいいの…?』
小さなあの子達の声。
全部、桜の木の下から始まった。
ああ、あのこたちは大きくなったんだなぁ。
大きくなって、優しくなった。
そして、強くなった。
それが、どうしようもなく嬉しくて、はらりと涙がこぼれた。
「涼子さん…………」
かなめくんが、私の頭を撫でてくれる。
私は泣きながら笑った。
「変なの。嬉しくて、寂しい」
「涼子さん」
「私、あとどのくらいかな」
「涼子さん!!」
体が小さくなった。
それなのに重くなった。
痛くて、だるくて、目を開けていられない。
自宅療養は、きっと次の検診で強制的に終わる。
来年はきっと、浴衣を縫ってあげられない。
私はあのこたちのそばにはいてあげられない。
わかりきってた、答えだ。
「今年も桜、みたいね」
「見ようよ、お花見しよう」
「来年は、ヒロとアヤも小学生だし。
入学式、いかなくちゃ。
リカの卒業式もいかなくちゃね」
「そうだね」
「それから、来年の夏は私がヒロとアヤを祭りにつれていってあげるの」
「うん」
「叶えたいこと、いっぱいだ……」
涙が止まらない。
悔しいのか、寂しいのか嬉しいのかわかんないけど、とまらなかった。
私はきっと、みんなよりもはやくさよならを言わなくちゃいけない。
そのときができるだけ先になるように。
お願い、もう少しだけ待っていて。