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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.63 )
日時: 2013/08/17 10:50
名前: 和泉 (ID: MTFzUrNw)  


♯24 「同級生と長女とデート(らしきもの)+α」


「ナツ兄の好きなものってなんだろう」

「おかーさんとおとーさん!!」

「うん、それはちょっと買えないかな」

「なつやすみのしゅくだい!!」

「もしそれを本気でナツさんが好きだっていったら、
俺は例えどうなろうとも本人に飛び膝蹴り喰らわすよ」

「根に持つわね。飛び膝蹴り」

「だって痛かったもの」


不毛な言いあいをしながら、
街で一番大きなショッピングモールの中をぐるぐると歩く。

俺の右手はアヤちゃんの手を繋いでいる。
アヤちゃんは藤沢さんと手を繋ぎたかったみたいだけど、
片手にはすでにヒロくんがいたため、三人は邪魔だと一蹴。
しぶしぶながら、俺の手を繋いでいる。

本当に、小さな手だな。

強く握りすぎたら壊れてしまうんじゃないかって、心配になるくらい。

小さな小さな手だった。


そんなアヤちゃんはひたすらに、
ナツ兄の好きなもの、ナツ兄の好きなもの、と呟いている。

かわいいな、と思った。

俺もこんな妹がほしい。


俺にも妹はひとりいるけど、乱暴なだけの一個下の妹とかかなりいらない。

「兄ちゃん、新技かけさせて!!」

とか言ってプロレス技仕掛けてくる妹とか全力でいらない。
むしろ遠慮したい。


と、遠い目をして乾いた笑いをこぼしていると。


「りょーり。ナツ兄、りょーり好き!!」

ヒロくんがぱっと思い付いたように叫んだ。
りょーり、料理か。

しかし藤沢さんは。

「あれは料理好きって言うのとはちょっと違うけど……」

とあまり良い顔はしていない。
なんでだろう、と首をかしげると、藤沢さんが困ったように笑った。

「私たちの母親、体が弱くて最近寝たきりなの。
父さんは仕事忙しいし。
だから私とナツ兄で家事を分担してるのよ。」

だから、料理が好きって言うよりかはやらざるを得ないって言うか。

そう続けた藤沢さんに、俺はすぐに返事ができなかった。


藤沢さんの母親が寝たきりだと言う事実より、
俺は藤沢さんのこと、なんにも知らないんだと言う事実が妙に堪えた。


「でも、ナツ兄いってたよ!
最近は料理ですとれすはっさんしてるって!!」

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、ヒロくんが空気を読まずに叫んだ。
ありがとうヒロくん。

「最近夕飯だけじゃなくて、おやつも作ってくれるよ!
アイスのせたホットケーキ、おいしかった!!」

「え。そんなのあたし食べてない」

「だってリカ姉が塾いってるときだもん」

「なにそれずるい」

不満げな顔をした藤沢さん。得意気なひろくん。
それにアヤちゃんも続く。

「おばあちゃんみたいなのもつくってくれたよ?」

おばあちゃんみたいなの?と首をかしげた俺に、藤沢さんはさらりと一言。

「ああ、ババロアね」

なんでわかっちゃうんですか。藤沢さん。

藤沢家ミステリーだな。
苦笑いしながら、三人の会話を聞いていると、ふっと頭にいいアイディアが思い浮かんだ。

ああ、だったら。

俺は藤沢さんに提案してみた。



「こんなプレゼントはどう?」



俺の提案に、藤沢さんはそうしようかと笑ってくれた。



買い物がすんだあと、プレゼントをラッピングしてもらうため、
サービスカウンターに藤沢さんとヒロくんが出掛けて行った。

俺とアヤちゃんはフードコートで場所取り。
お昼はハンバーガーに決定だ。

二人を待っている間、俺はアヤちゃんととりとめのない話をしていた。
学校の話だったり、藤沢さんの話だったり。

そして、話すことがなくなった辺りで、プレゼントのことに話を振った。


「よかったね。いいプレゼントが見つかって」

「うん!ありがとう、オトヤくん!!」


ふわふわと笑うアヤちゃん。
ああもう、かわいいなぁ。

「ナツさんは幸せだね。
こんなに家族から、大事にされてるんだから。
明日はきっといい誕生日になるよ」

本心から、そう思った。

笑ってそう言って、アヤちゃんの頭を撫でた瞬間。

すっとアヤちゃんから表情が消えた。

驚いて手を止める。
どうしたんだ、一体。
俺は、なにかまずいことを言ったんだろうか。

焦る俺に、アヤちゃんは一言。


「しあわせだけど、しあわせじゃないんだよ」


そう消えた表情のまま、乾いた声で言った。


「え」

「ナツ兄は、夏が嫌いなの。
夏に生まれたから、夏が嫌いなんだよ。」

この子はなにをいってるんだろう。
呆然とする俺に、アヤちゃんは淡々と言う。

「ナツ兄の誕生日はね、悲しい日なの。
ナツ兄はいつも、悲しい顔をするの。
しあわせだけど、しあわせじゃないんだって。」


だって誕生日は、ナツ兄のほんとのおとーさんとおかーさんがしんだ日だから。


それは、いったいどういう意味だ。



「よーし、なんだよ。
あやもひろも、リカ姉もナツ兄も、みんなたにんなんだよ。
もらわれたんだよ」


養子なんだよ。
アヤもヒロも、リカ姉もナツ兄も、みんな他人なんだよ。


頭の中で言葉を変換して、ようやく我に帰った瞬間。


「アヤ、そこまで」


そう言って、サービスカウンターから帰ってきた藤沢さんが、
また困ったように笑いながら、アヤちゃんの頭を叩いた。