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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.68 )
日時: 2013/08/17 22:06
名前: 和泉 (ID: ZsfIQqc0)  


♯26 「長男と同級生と親友と」


いろいろつっこみたいことはある。
ここは公立高校なのに、なんで土曜日まで講習で埋めなきゃいけないんだとか、
しかも午前と午後両方とか鬼かよ、とか。


でも一番突っ込みたいのは。


「なにしてんだよお前ら」

「おいしいです藤沢くん。」

「やっぱお前料理上手いなー。この卵焼き絶品だわ」

「むむ。それは聞き捨てなりません。
私にも一切れください。」

「いいよー」

「よくねぇよ。人の話聞いてるかてめえら。」

『聞いてないですよ?』


何故昼休みに、さも当たり前のように
佐々木杏奈が俺と一緒に弁当食ってるのか。

今日一番の疑問である。

佐々木の隣には、俺の親友である金井浩二がいる。

浩二は、俺の小学校からの友人だ。
社交的で明るく、独自の情報網を持っている。
あだ名は情報屋。
言い方や態度は軽いが、頭のいい男だと思う。

そんな浩二がパクパクと食っているのは、自分が買ってきたカツサンドではなく
俺が俺のために作った弁当だ。

佐々木も一切躊躇することなく箸を伸ばしている。


「まだ浩二ならわかるんだ。なんで佐々木がいる」

「あら。差別はいけませんよ、藤沢くん。」

「なにが差別だ当たり前の疑問だろうが。
そして俺のハンバーグ返せ」

慌てて佐々木が掠め取ろうとしていたハンバーグを死守。
弁当のメインがなくなるだろうがお前ら。

すると、浩二がニヤリと笑った。

「佐々木さん、俺が呼んだの。一緒に飯食おうって」

「なんでだよ」

「魔除けみたいなもんだな。
おっと。言い方悪くてごめん、佐々木さん」

「いえ。その通りですから。」


魔除け?
首をかしげていると。


「ここ数日、お前にしつこくひっついていた女子グループ。
最近来ないだろ?」

ふっと夏祭りの日のことが頭をよぎって顔が歪むが、考えてみたら確かにそうだ。

「確かに」

うなずくと、またニヤリと浩二が笑った。

「どーも聞いたところによると、佐々木さんがやらかしてくれたんだよな?」

「え」

「私は常識を教えてさしあげただけです」

平然とした顔で、佐々木は自分の弁当のおかずを口に放り込んだ。

「何が常識を教えてさしあげた、だよ。
あいつら完全にお前にびびってたぞ。
お前のこと、魔女だって言ってたし」

佐々木。
魔女だと呼ばれて怯えられるほどの、一体なにをやつらにしたんだ!!

しかし佐々木はほほえんで一言。

「あら、いい気味……っと、すいません、本音が」

「佐々木さんっていっそ清々しいよね。
もう尊敬するくらい、腹の底の黒さを隠そうとしないよね」

「ふふ。
まあ、私は女子の力でもやろうと思えば人の一人は絞め落とせると
教えてさしあげただけですので」


怖いよ佐々木さん。
俺がびびりそうだよ佐々木さん。

「まあ、とりあえず女子たちは佐々木に怯えてる。
だから佐々木が近くにいりゃ、そう簡単にはよってこれない」

だから魔除けか。

「私も、一緒にお弁当食べるような友達はいませんから。
藤沢くんや金井くんが一緒に食べてくれるなら、それはそれで嬉しいんです。」


だから魔除けでもなんでもいいです。
そう言って、佐々木は穏やかに笑った。


それにしても。

「佐々木はあいつらになにをされたんだ?」

「え?」

「佐々木が誰かをびびらせたってことは、本気でキレたんだろ。
本気でキレるような、なにをされたんだ?」

佐々木はぱちくりと目を瞬かせたあと、そうですね、と小さく呟いた。

「私が大事にしているものを侮辱して、傷つけたので。壊される前に私が壊しました」

それはひどく、危うい言葉のように感じた。




お昼を食べ終え、佐々木さんが席に戻ったあと。

「忘れるとこだったわ。
誕生日、おめでとさん」

そう言って、浩二に黒い紙袋を渡された。
誕生日プレゼントだという。


そういえば、明日は俺の誕生日だ。

幸せで、不幸せな誕生日だ。

小さく苦笑すれば、ぽん、と頭を叩かれた。
小学校からの友人の浩二は、藤沢家の秘密も俺の誕生日のことも知っている。


無理するなよ。


ぶっきらぼうに、軽く渡された言葉は、
今日一番の優しい言葉だった。