コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.71 )
- 日時: 2013/08/18 08:46
- 名前: 和泉 (ID: BdPlSccL)
♯27 「長男と神様とさいごのさようなら」
両親が死んだのは、俺の六歳の誕生日だった。
俺と両親はその日、ドライブがてら車で海岸沿いを走って、俺の誕生日プレゼントにゲームを買いにいく予定だった。
「夏!!海、綺麗だろ」
「うん、すごく綺麗!」
「見れてよかったね」
あの日の些細な会話が、10年たっても耳にこびりついて剥がれない。
両親の笑顔はもう、おぼろげにしか思い出せないのに。
あの日、六歳の俺は体を乗り出すようにして窓から海を眺めていた。
そして、それが起きたのはほんの一瞬だった。
「危ないっっっっっ!!!!!」
父親の金切り声が聞こえた。
それと同時に車が大きく揺れ、体が窓に押し付けられた。
上か下かもわからない。
ぐるぐると、まるでミキサーにかけられたような揺れと轟音が続いた。
本当の恐怖に直面すると、人は悲鳴すら出ないらしい。
しばらくして、揺れが止まった。
そっと目を開けて周りを見ると、車の天井がすぐ近くにあった。
ひしゃげているんだ、とすぐにはわからなかった。
「夏、夏、大丈夫…?」
俺の隣に座っていた母親が、かすれて今にも消えそうな声で俺を呼ぶ。
全身の痛みに耐えて、ゆっくりと目をあける。
最初に見えたのは、赤く染まった母親の服だった。
「よかった、いきてた」
母親はそう言って、するりと俺の顔を撫でた。
「夏、お母さんがおしてあげるから、窓から出れる?」
「お母さんは?」
お母さんは、どうするの。
俺の問いに、母親は優しく笑った。
「あとから必ずいくから」
そう言って、母親は開いていたパワーウィンドウから俺の体を押し出した。
近くにいた大人が、俺の体を受け取ってくれた。
次は、お母さんだ。
俺が手を伸ばした瞬間。
「危ない、引火する!!」
「今すぐ車から離れろ!!」
たくさんの大人が、叫ぶ声がした。
なにをいっているの。
お母さんが、まだ、そこにいる。
お父さんだって、そこにいる。
いきたくない。
いきたくない!!
大人が俺を抱き抱えて走る。
見るな、かなにかを叫んでいた気がする。
だけど、目の端にはしっかりとうつっていた。
赤い、赤い炎が。
海の青と炎の赤。
母さんの声と父さんの悲鳴。
体の痛みと胸の痛み。
それが、俺の誕生日の記憶。
俺の10年前の誕生日の記憶だ。