コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.77 )
- 日時: 2013/08/19 21:01
- 名前: 和泉 (ID: Qz56zXDk)
♯30 「長男と神様とさいごのさようなら 3」
嫌な思い出と幸せな思い出。
ふたつを頭に思い浮かべて帰宅した。
あの日から、11回目の誕生日がやってくる。
明日はきっと例年通り、海のそばにある墓地にお墓参りだ。
年に一度、必ず事故を思い出す日。
少しだけ憂鬱さを感じながら、家のドアを開けると。
「おまえらどうした」
硬直した。
そこには。
「おりいって、お話があります」
『あります!!』
玄関前の廊下に正座した、リカと双子の姿があった。
佐々木に始まり、お前ら俺をいったいどうしたいんだ。
そのあときいた、リカの話はひどく簡単だった。
それこそ一言ですむような話だ。
『ナツ兄の両親の墓参りに、私たちもつれてって。』
たった、それだけだった。
いったって楽しくはないし、
退屈なだけだと言ったけれど、三人は行くと言い張った。
行かなきゃいけないんだ、と言い切った。
俺にもうその訴えを退けることはできなかった。
そして、あっさりと8月11日はやってきた。
「ナツ兄!!海だよ、海!!」
「海だな、落ち着けヒロ」
「うーみーはあおいーな、あーおーいなぁー」
「アヤ、それを言うならうーみーはあおいーな、おおきーなぁー、だよ?」
「間近でみたらゴミが大量に浮いてるけどね」
「リカぁぁぁぁぁあ!!
現実を見るんじゃない!!!」
なんなんだろう、この状況。
去年までは、電車で俺と両親とででかけていた。
でも今年は母さんが車イスだし、
人数も多いからと父さんの車ででかけることにした。
10年ぶりの車はまだ少しだけ怖かったけど、
恐怖なんて吹っ飛ぶほど何故か全員テンションが高い。
何故だ。
驚いて呆然としているうちに、車が墓地の駐車場に止まった。
歩いて少し。
海が見える、切り立った崖の上。
一番白くて真新しい墓が、俺の本当の両親の眠る場所。
海の青と炎の赤。
母さんの声と父さんの悲鳴。
体の痛みと胸の痛み。
今も覚えてる。
ひとつも、忘れてなんかない。
「ナツ兄、お花」
「アヤ、ヒロ、お線香できるー?」
『できる!!』
「涼子さん、俺水汲んでくるね」
「ありがとう、かなめくん」
墓の前で立ちすくむ俺。
気にせずぱっぱと掃除をしていく藤沢家。
そして10分ほどしてようやく、線香があげられる状況になった。
「じゃあ、お母さんからね」
そう言って笑って、母さんは線香を墓の前にそっとおいた。
続いて父さん。ヒロ、アヤ、リカと続いて俺の番。
線香を差し出す俺の右手は、小さく震えていた。