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Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.84 )
日時: 2013/08/20 17:10
名前: 和泉 (ID: L46wKPpg)  


♯32 「魔女と情報屋と王子様」


「……それにしても。
本当に底意地の悪い男ですね」

「魔女さんにはいわれたくねぇな、学校一の腹黒め」

「あら、お言葉ですこと」


イチコー近くの神社の境内。
イチコーの制服を着た男女が、アイスをかじりながら話していた。

少女の方は肩下までの真っ直ぐな黒い髪に、
メガネをかけている。
少年はちょっとくせっけな茶髪で、
高2の男子にしては少々小柄な体つきだった。


「佐々木さんさー」

「アンナ、でいいですよ。
共同戦線、張るんでしょう。」

しれっと言いながら、またアイスを一口。
少年は苦笑して、隣にいる少女の名前を呼んだ。

「アンナ。
夏祭りの日、俺の情報は役に立ったみたいだな」


さあっと、風が二人の間を吹き抜けていった。


そっと、少女がケータイを開く。

夏祭りの日付に、メールが一通だけ入っていた。


『王子がめんどいやつらに絡まれてる。
藤沢家の秘密について嫌みを言われた。
姫は水色の浴衣。
境内の裏の方に走っていった』


「この王子とか姫ってなんなんですか」

「わかるだろ、意味は」

「わかりますけど。
普通にナツくんとリカちゃんって言えば良い話でしょう」

「なんかコードネームみたいなん使ってみたかったんだよ。
佐々木さんは裏で魔女って呼ばれてるし、俺は情報屋だろ?」

だったらナツは王子かなって。

続けて笑った少年に、
安直ですね、と少女が肩をすくめた。

また風がすり抜けていく。

少女が目をすがめて乱れた髪を直したとき。

「なあ、あんたは名乗りでないの?」

少年が少女に問うた。

なにが、とは聞かない。

「じゃああなたは名乗り出ることができるんですか」

そう返した少女に、少年が返事をすることもなかった。


7月の始め。
夕日の差し込む教室で、少年は少女に話しかけた。

『あんたの秘密、俺、知ってるんだけど』

少年の一言に、少女は凍りついた。


『あんたは、藤沢家の———の———なんだろ?』


言い終わる前に、少女は教室の床を蹴る。
暴力でもなんでも構わない。
こいつを脅してでも、口止めしなくちゃ。

少年のもとまで詰め寄り、助走をつけて蹴りを食らわそうと足を振り上げる。

しかし、それは軽くかわされてしまった。

『なんで知っている!!』

少女は叫ぶ。
少年は微笑みを崩さない。

『なんでだろうね』

『言わないで!!』

少女は叫んだ。

『——には、お願いだから黙っていて!!』


『いいよ、言わない。』


少女の願いを、あっさり少年は聞き入れた。

『その代わり、俺に手を貸してよ』

『え……?』


『藤沢家が、今危ない。
藤沢家を守るために、俺に手を貸してくれないか?』


少女は、少年を見つめる。

『どうして?
あなたはどうしてそんなことをしようと思うのですか』

少女の問いに少年は笑った。


『俺が、———の———を———したから』


少女は、少年を受け入れた。


あれから時間は流れて、もう一月がたとうとしている。

「そっちの方はどう?」


「ええ。
今頑張って説得してはいますが、聞く耳を持ちません。」


少女はため息をついた。

大人は勝手だ。
勝手で、ひとりよがりで、誰も助けてなんかくれない。


だから、私たちが守らなくちゃ。


「魔女と情報屋が手を組んだんです。
なんとかしてみせます」


幸せを、壊させたりしない。


そうして、少女、佐々木杏奈と、
少年、金井浩二の暗躍は始まったのだった。