コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.86 )
- 日時: 2013/08/21 16:02
- 名前: 和泉 (ID: xlzTc90W)
♯33 「次女と忘れものとお手伝い」
「あ、リカ忘れ物してる」
ナツ兄の誕生日から少し時間がたったある日。
リビングに掃除機をかけていたナツ兄が、テーブルの上にのっていた紙袋を持ち上げた。
「劇の衣装、せっかく俺が貸してやったのに」
困ったようにため息をつくナツ兄。
「げき?」
私、アヤはそんなナツ兄の足にしがみついた。
私も劇みたことあるよ。
幼稚園に、げきだんがきて、人魚姫をやってくれたの。
すっごく楽しかった。
「リカ姉、劇するの?」
ヒロも幼稚園の劇を思い出したみたい。
嬉しそうにナツ兄のTシャツを引っ張る。
「おー、文化祭でな。
ほら、リカ、今日は朝から学校に行ってるだろ?
文化祭の準備なんだよ、今日。
夏休みの登校日。
始業式は来週だけど、今日は特別なの」
そうか。
だから朝からリカ姉はいなかったんだ。
文化祭が学校でするお祭りなんだってことは、この間リカ姉が教えてくれた。
「今日衣装あわせなんだよな。
これ、必要だよな。
しゃーない。アヤ、ヒロ、俺ちょっとリカんとこ行ってくるわ」
ナツ兄が言いながら掃除機をしまう。
むむ。
今の言葉は聞き逃せないぞ。
「リカ姉のとこ行くの!?
ずるい!!」
「え」
「おれがいく!!
おれがリカ姉にいしょー届ける!!」
ヒロがナツ兄のもってる紙袋を引っ張る。
ナツ兄が慌ててるけど、知るもんか。
「ヒロがいくならアヤもいく!!
リカ姉の学校、幼稚園いくときいつも見るもん!!
ヒロとふたりでいく!!」
毎朝、私とヒロをリカ姉が幼稚園まで送ってくれる。
前に幼稚園に行く途中、リカ姉は大きな建物を指して
「ここ。あたしはここに毎日通ってるんだよ」
そう私たちに教えてくれた。
だから、リカ姉のいる場所は知ってる。
私だって、リカ姉に会いたい。
それにナツ兄私知ってるんだよ。
お墓参りにいった日からずっと、お母さんの具合が悪いこと。
ナツ兄、お母さんのそばにいるようにお父さんに頼まれてたじゃない。
私だってナツ兄の役にたちたいもん。
『ふたりでいく!!』
ヒロと声をあわせて叫んだ。
じっとナツ兄を見る。
ナツ兄は呆れたような顔をして、ふいっとどこかへ行ってしまった。
「ヒロ、ナツ兄怒っちゃったのかな」
「わかんない。やっぱりダメなのかな」
不安で胸がぎゅっとなった。
ヒロの手を握りしめると、ヒロも握り返してくれた。
ヒロも、不安なんだね。
二人でリビングで立ちすくんでいると。
「アヤ、ヒロ。 首出せ。」
ナツ兄が戻ってきた。
首ってなんだ?
そう思って振り向くと、しゃがみこんだナツ兄が私の首に何かをかけてくれた。
見てみると、トトロのマスコットが首から下がっていた。
「ここ、押してみ」
ナツ兄が指差している、首のボタンを押してみる。
ビ——————ッッッ!!!!
けたたましい音が響いた。
耳がキーンってした。
目を白黒させていると、ナツ兄がまた何かをヒロの首にかけた。
あれ、ナツ兄のケータイじゃないのかな。
首をかしげていると、ナツ兄がトトロを指差した。
「これ、防犯ブザー。
もし変な人に話しかけられて、怖くなったらこれをならすんだぞ。
誰かが気づいたら助けてくれるから。
それからこれ、俺のケータイ。
ここのボタン押したら電話がかかるから、もし困ったりしたら電話しろ。
それからちゃんとリカに会えたら、俺に電話するよう伝えてくれ。
わかった?」
これは、つまり。
「ナツ兄、リカ姉のとこに届けに行っていいの?」
おつかいさせてくれるってことなのかな。
すると、ナツ兄の大きな手がぐしゃぐしゃとヒロと私の頭を撫でた。
「悪いけど、頼むわ。
車には気を付けろよ」
ナツ兄の言葉に、私とヒロは大きくうなずいた。