コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: こちら藤沢家四兄妹 ( No.93 )
- 日時: 2013/08/24 23:03
- 名前: 和泉 (ID: 98AXyywb)
♯36 「同級生の恋心」
その後、トイレにいきたいと言った双子をつれて藤沢さんが教室を出ていった。
衣装あわせも再開される。
俺の出番じゃなかったので教室のすみに退散し、
台本を書き直している三好の、隣の席に腰かけた。
もちろん文句を言うためだ。
「やってくれたなクラス委員」
「なんのことかなロリコン野郎」
「ロリコン言うなばか」
くそっとすねて机につっぷす。
すると、三好がくすくすと笑った。
「それにしても驚いたなぁ」
「なにが」
「リカの顔だよ。
あんな優しい顔してるの、初めて見たかもしんない。
いつだって、余裕たっぷりの不適な笑みか、無表情かしかしないリカが。
ずいぶんとやさしい顔するんだな、と思って」
うん、俺もだよ。
心のなかで返事する。
初めて藤沢さんから家族の話を聞いたときに見た、
柔らかな笑みは今も忘れられない。
家族が大好きなんだな。
漠然と感じたその思いは、藤沢家の秘密を知った今じゃ少し変わった。
大事にしたいのだ、藤沢さんは。
家族の優しさも、愛も、幸せも知らなかった藤沢さん。
そんな彼女が初めて知った幸せが、きっと藤沢家なのだ。
だから執着する。
はじめての幸せを守るために藤沢家に執着する。
イチコーに受かることにこだわるのも、
きっと藤沢家を守るために彼女に必要なことなのだと今ならわかる。
「俺さ、初めて藤沢さんのあの顔を見たとき、正直悔しかったんだ」
「うん」
三好は黙って俺の話を聞く体制にはいった。
「俺の知らない顔が藤沢さんにはまだたくさんあるんだってことや、
俺にはそんな優しい顔見せてくれないんだってことが」
「わかるよ」
私も、今まさにそうだもの。
クラスで一番藤沢さんと仲がいい三好。
三好も俺と同じ思いを抱いていたようだった。
でも、でもね。
俺はね。
「だから決めたんだ。
藤沢さんにあんな顔をさせることができるくらいの男になってやるって」
藤沢さんの全部を、受け止められるくらい大きな男になってやるんだ。
俺の言葉に、三好が目を丸くする。
そして放った一言は。
「ただのロリコンじゃなかったんだね」
「泣いていいですか」
なくぞお前。
うらみがましくにらむと、三好はひらひらと手を振った。
「うそうそ、冗談。
日下部、リカのこと大好きなんだね」
その言葉に、返事はしなかった。
そんなことは本人にだけ伝わればそれでいいから。
なにも言わない俺に、三好はふっと微笑んだ。
「意外と健気なんだね。気に入った。
日下部、いいこと教えてあげる」
三好がそっと俺の耳もとに口を寄せる。
そして、小さな声でこう言った。
最近、リカはあんたといるときもすごく優しい顔をしているよ。
私が妬いちゃうくらいにね。
三好の言葉に、体温が急上昇した。
「さっさとくっつけよばか。
はやくリカを落としてこい。」
ねえ、藤沢さん。
俺、ちょっとは君に近づけたって思ってもいいのかな?